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りらいぶジャーナル

スタートは“心の準備”から

社会情勢激変で揺れるリタイアリーの現実
---いまなぜ「りらいぶ塾」か ①---

 シニアの活気が失われている。特に団塊の世代に元気がない。例えば、これまで元気なリタイアリー(退職者)の象徴だったいわゆるロングステイ・サークル団体が急激な会員減少に悩んでいる。高齢会員の退会をカバーできるだけの新入会員がなく、期待していた団塊の世代の入会も伸びていないのだという。その背景にリタイアリーを取り巻く環境の激変と心の問題が見えてきた。どうすれば退職後、生きがいのある人生に踏み出せるのか。

心をリセットする「りらいぶ塾」で支援

 元気でお金のあるリタイアリーでビジネスが活性化するという団塊マーケット構想は幻想に終わった。大手広告代理店の描いた団塊ビジネスの予測は大きく外れた。

 団塊の世代の退職が始まるころから産業界では65歳定年延長が広がり、多くのサラリーマンの間では第2の人生を探すというより、まだまだ今の職場で働こうという志向が強くなった。ただしそれは本質的な意味で生きがいを仕事に求めるというより、例え収入が減り不本意な待遇であっても、慣れ親しんだ組織や職場にいわば「しがみつく」という意識が強かった。

 そこにサブプライム・ショックが襲う。会社も65歳まで雇用を継続できるか難しくなった。企業年金さえ危ない現実が見えた。厳しくなった社会環境のなかで、退職世代はまだまだ体力・気力ともに余裕のある60歳という転換期を、新しい価値観を生み出すことができずに萎縮してしまっているのではないか。

 「サブプライム問題は退職者の生き方にも大きな影響を与えている。それに対してR&Iで何かやれることはないのだろうか」――。このような会員からの問題提起があったのは昨年春だった。長い間会社勤めに慣れた人間には、大企業であればあるほど何とかその組織に留まりたいと思っており、組織を離れるための心の準備ができていない。しかし、昨今の社会情勢の変化のなかで65歳まで働けるという保証も危うくなり、子会社や関連会社などへの再雇用も難しくなった。いまこそ長年働いていた会社を離れて生きるうえでどのような問題があり、それをどのようにして乗り越えていくかということを同じような立場の人々と真剣に話し合ったり考えたりする場が必要ではないか。

 こうした会員からの問題提起を受けてR&Iでは「りらいぶ塾」構想を立ち上げた。では、その「心の準備」とはどのようなものなのか、

●肩書き・看板を捨てられない

 退職者の経験・能力を生かしてライターやプロの講師としての活動を支援している団体「東京スピーカーズクラブ」などを主宰している児玉進さんは、数多くの退職者のその後を見てきた経験からこう指摘する。「上手くいかない人は昔の栄華が忘れられない。つまり、会社や組織という金看板があってご自分が存在したのに、それを実力と勘違いしているんです。身の処し方がわかっていないんですね」(RJ本紙2008年10月号)

 「入団資格50歳以上」というミュージカル劇団「発起塾」代表の秋山シュン太郎さんも同じような見方だ。「男性には、リタイアして『個人』に戻ったときにも現役時代の肩書き、プライドから逃れられない人が多いようです。新しいことを一からスタートさせるとき、元○○に必要以上にとらわれてしまっていては当然続きません。ただ、肩書きにとらわれてしまう男性の気持ちも理解できます。企業勤めの男性は、上司、部下、取引先などとの関係性のなかで相対的な自分の位置を確立させていく社会に長年いたわけですから。個人として生きていくことができない世界にいたから、肩書きを捨てたときに何が残るか不安になるのでしょう」(同04年12月号)

誰でもゼロからの出発、勇気を出して
●必要な心のリセット

 各種団体や銀行、生保などが主催する退職前セミナーのリタイアメントプランでは年金、財テク、健康などの知っておくべき情報を網羅してはいる。もちろん大事なのだが、もっと重要なものがある。

 キャリアカウンセラーを務めていた柏木理佳さんは「再就職したり起業を考えたりする方も多いですが、その前に一度自分をリセットさせる必要があります」と明言している。 柏木さんは定年時に書かれることが多い自分史を例に「気をつけなければならないことは、自慢史になってしまうことです。自分の家庭問題や本当に辛いことは言わないし、書きたくない。本音の部分を伏せてしまうのです。それでは自分史を書く本当の意味がない。第三者、例えば編集者(カウンセラー的な存在)にヒアリングしてもらうことが大事なのです」と述べている。柏木さんによれば、リセットとは「これまでの人生のなかの価値観を、例えば人に奉仕するといった作業によって一度放出し、仕事と会社だけではない価値観を取り戻すこと」だという。「それをなるべく早く、逃げずに考えることです。とにかく話を聞いてくれる人を見つけるのです」(同06年12月号)

 つまりリセットできないまま新たなことを始めてしまったために、「こんなはずではなかった」という事態が発生しているのだという。

●ゼロからの出発を恐れない

 福祉施設への訪問ライブや平和のためのコンサートなど音楽を通じた市民活動を繰り広げる「NPO法人国境なき楽団」代表で歌手の庄野真代さんはその活動の動機を「ゼロから未知の分野に飛び込んでいく勇気が自分のなかに生まれた」と語る。

 庄野さんは00年に法政大学に入学、04年には早稲田大学大学院に進学した。その経験を「私にとってまったく未知の世界です。それでも学生としてゼロの立場で取り組んでいくと、経済の枠組みを知ることによって、無力に思える個人でも他の人たちのために何か活かせるシステムを見つけることができるのではという新しい発見をしたんです」と振り返っている。そして「多くの社会人の方は自分の肩書きや経験、自分の作った人脈だけで物事を始めようとしがちで、ゼロから始めることが怖かったり、ゼロから始めることを知らなかったり、自分はゼロからやる人間ではないと言って違うポジションに行きたがります。でも、誰もが最初はゼロから始めるんだという大きな視点に立って見ることが大事だと思います」(同06年7・8月号)と、ここでも「リセット」に通じる「ゼロ」という言葉がキーワードとして浮かび上がっている。

 R&Iでは退職後の新たな人生をできるだけ失敗しないように生きるためのキーワードとして登場してきた「リセット」「ゼロ」という言葉の意味するものを、より効果的に実現させるための方法を探した。その結果を「りらいぶ塾・心のリセットプログラム」として今春スタートさせる。

 プログラムは2部構成で、一つはビジネスプロデューサーとして中高齢者の退職後の起業支援などを手がけている黒川ゆかり氏(R&I会員・ピュア代表)が開発した自己発見型のセミナー。もう一つは明治座アカデミーと提携し演劇的手法を取り入れた自己表現型ワークショップ。

 黒川氏は「自己分析によってやりたいことを見つける方法を学んでもらう。時間を忘れて夢中になれることを探せば、そこに必ず発見があるはず」と独自のプログラムを開発した。【続く】
(※引用記事中の肩書きは取材当時のものです)

<参考>演劇で“リセット”する
人生の出発点、舞台から 明治座アカデミー、第10期生が卒業公演
(2010.02.18)