Skip navigation.
りらいぶジャーナル

介護は心 人による癒しを追及

りらいぶインタビュー 【快適な介護に向けて】
リエイ 椛澤 一さん

 介護行政への不信感、介護環境への不安など先行き不透明な介護現場。介護事業者はこのような状況をどう打破するのか。介護サービスのアジア展開構想など独自の路線でサービスを追及する株式会社リエイの椛澤一社長に課題と将来ビジョンを聞いた。

《聞き手:NPO法人リタイアメント情報センター理事長 木村 滋》

木村 御社は給食業務からスタートして介護事業をされていますね。経営理念をお聞かせいただけますか。


椛澤 もともと生活サービスに興味がありました。事業テーマはこれまで一貫して「人にしかできない人への生活サービス」、それは「人はひとによってこそ癒される」という思いから発しています。
 24歳で起業して、企業福利厚生の独身寮の生活サービスを専業に今、全国約340カ所で運営中です。平成12年からは介護サービス事業にも参入し、現在関東・関西に16カ所の施設を運営中です。また、国内展開と並行してアジア介護ネット構築に努めているところです。

木村 介護は行政との絡みもあります。今、介護市場では何が問題だと思いますか。

椛澤 介護保険制度を3年ごとに見直す介護保険事業計画で、平成18年からは介護コスト削減を命題にテーマに適った予防介護と在宅介護を推進する改訂でしたが、これまでの推移では実態や実状とかい離し、成果は少なく、むしろ新たな大きな問題を派生させました。大幅な保険単価の引き下げと、何か事があると無策にも「臭いものにふたを」的な発想で多くの規制を強いて、業者に過剰なコストを負わせました。

 そして低賃金、重労働化を加速させ、大変な介護人材難に陥らせてしまったわけです。このままでは民間介護が崩壊し、その結果、多くの介護難民を生み出してしまうことになります。厚生労働省は年金問題なども含め、国を駄目にするために存在しているとしか思えない駄目な機関ですね。


(写真=コンシェール南千住は共有スペースを広く取り、居住者同士の交流を促す)

木村 本当にそうですね。ところで、リエイさんの他施設に比べ、要介護度が低い入居者対象という最新の有料老人ホーム「コンシェール南千住」を拝見させていただきましたが、その料金を考えますと、ここで10年も暮らすと5000万円程度必要となりそうで、かなり高額ですね。

椛澤 確かに弊社の他施設に比べ、負担は大きいですね。人それぞれの生活スタイルと価値観があるわけですが、その違いは所得に因るところが少なくありません。共同生活で大事なことのひとつに、価値観に差がないことがあると思います。この価格帯に適った生活レベルの方々同士が、それまでの人生の自分への慰労に、それまでの生活スタイルに沿った快適な時間を過ごす環境を今回は提案させていただいた次第です。

日本とアジアの介護を連携
豊かなホスピタリティ提供


木村 御社はアジアへの展開に取り組んでいますが、タイが始まりだそうですね。その経緯をお聞かせください。

椛澤 日本の人口動態から近い将来に介護人材不足になると判断し、海外に人材を求めるべく、当時からホスピタリティや敬老精神に定評があったフィリピンやタイにまず行ってみようと出向きました。そこで初めに人のご縁があったのがタイでした。お蔭様でいまや貴重な人脈を作らせていただきました。フィリピンにおいても同様で、両国にはぜひ日本人介護に関わっていただきたいですね。

木村 タイではタイ人の介護士養成と共にロングステイ用のサービスアパートメントも経営されていましたね。

椛澤 介護人材育成で現地に出向いているうちに、気候・文化・習慣的に日本人に違和感のないタイへこちらから出向く選択肢があるではないかと思ったのです。しかし当時は、いきなり介護のために現地に出向くということに飛躍を感じ、その前段としてロングステイに関わりました。

 パイロット機能としてバンコクにサービスアパートメントを経営し、結果は残念ながら4年ほどで弊社の力不足で撤退しました。アジア諸国と日本の経済力の相対関係、日本の高齢者雇用を必要とする環境変化から、今後ロングステイについてはネガティブに考えています。そこで我々としてはこれまでの学習を活かして、アジア介護ネット構築に絞り込んだわけです。


(写真=タイ人スタッフを招へい。アジア介護ネットを担う)

木村 最近は外国人研修・技能実習制度の見直しやEPA(経済連携協定)での外国人介護士導入が盛んに叫ばれていますが、外国人介護士を使うメリットは何でしょうか。

椛澤 まずは量の問題解決です。しかし、それを安い労働力導入と見るのは間違いです。

 現地事情を把握している私から言えば、彼らは日本の介護士以上の時間をかけて勉強をしているハイレベルなスキラーです。さらに現代の日本人に失われつつある思いやり、敬老精神の持ち主です。このような人たちが日本人の介護を手伝ってくれることの素晴らしさを多くの人が知るべきで、質の向上に繋がると思っています。

 加えて残念なのは、彼らが介護労働力として世界から引く手あまたにある現実を日本の行政がわかっていないことです。

 それは最近インドネシアとのEPAで介護士導入を図った際の無残な結果が物語っています。日本語や介護福祉士の資格などの高いハードルを強いるばかりでは、そのうちどの国も相手にしてくれなくなりますよ。介護は言葉や資格も大切ですが、やはり最後は心です。日本の政府は世界的な“KY(空気が読めない)”(笑)。だから民間がしっかりしなくてはいけませんね。

 さらに申し上げれば、今後の年金や介護保険財政の不安もあって、日本スタイルの介護と言葉、文化、習慣の教育を施した介護マインドを持つ人々がいるタイ、フィリピンなどアジアに介護ステイすることは至極リーズナブルと思っています。

木村 まったくそうだと思います。

高レベルな海外医療と介護
実態正しく伝える努力を

木村 ただ、東南アジアや中国で日本語を教えてほしいという要望があります。シニアならビジネス経験もあるのでビジネスマナーも教えられるというわけです。年金と現地給与でまかなえますしね。

 ところが、60―70代で日本語を教えに海外に出ようという意思を持っている人は極めて少ないのだそうです。同じように、気持ちとして外国にまで行って介護を受けるということに抵抗があるのではないですか。

椛澤 確かにまだそのような考えは強いでしょうね。それを踏まえて、私共の役割は現地の医療レベルの高さや生活の安心、安全をいかに伝えるかだと思っています。

木村 アジア介護ネットというのは、具体的にはどの国が候補なのですか。

椛澤 タイ・フィリピン・マレーシア・中国・台湾など考えています。

木村 中国からは我々に、ロングステイしながらIT技術やビジネスマナー、そして日本語を教えてほしいというオファーが来ています。中国市場はどうお考えですか。

椛澤 中国も一人っ子政策以降、介護に対して大変な不安感を持っています。ですから我々がめざす介護もきちんとした事業者と提携できれば有望です。


(写真=施設内でマッサージを提供。コンシェール南千住で)

木村 ある意味で中国に行けば生きがいを持つことができるんだという先駆者を我々が送り込んで、それが増えればその後に続いていくでしょう。我々も先ほどの医療のような実態を紹介していくことが必要ですね。
 ところで、今後の夢はどう描いていますか。

椛澤 やはり、今や私にとってアジア展開はライフワークとなっていますので、日本で展開する介護サービスとアジア展開をリンケージさせた安心を普及させることです。先に申し上げた各国それぞれの状況に沿っていろいろな形の提携を模索しているところですが、その一環である日本においても、富士山近くの山中湖に新たなコンセプトのシニアケアサービス用の土地を手当てして準備に入ったところです。

木村 楽しみですね。いつごろその形を見せていただけますか。

椛澤 来年にはどこかでひとつ立ち上げ、3年後に全体の目処をつけたいと考えています。

木村 その実現に向けて、最大の問題点は何でしょうか。

椛澤 海外で介護を受けることに関して、医療レベルや治安、衛生面などに対するイメージと実態とのかい離です。そこで我々がいかに実態を伝えられるかにかかっていますので、今回取材いただいたこのような機会にアピールしていく必要があります。ありがとうございました。

木村 こちらこそ、ありがとうございました。

●かばさわはじめ
(株)リエイ代表取締役。1947年東京都生まれ。亜細亜大学在学中に音楽プロモーション活動を行う。その後、東京・銀座でレストランを3店舗経営。80年理栄産商設立。工事現場の作業宿舎の給食業務を機に企業の社員寮の受託管理運営に進出。88年リエイに社名変更。現在は社員寮・保養所・研修施設・社員食堂など企業の福利厚生受託運営事業を展開する。2000年4月より介護事業に進出。

●きむらしげる
NPO法人リタイアメント情報センター理事長。学習院大学卒業後、オリベッティなどを経て日本のITベンチャーの草分けであるCSKに入社。CSKと日本IBMの合弁企業、ジェー・アイ・イー・シーの社長、会長を歴任。2004年に退任し、07年から当職に。


関連記事
認知症治療、海外で 療養の選択肢広げる提案 「海外療養プログラム」を開始
橋幸夫さん招き介護セミナー