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りらいぶジャーナル

日本語教室から見えた地域コミュニティの大切さ

●広田明彦さん

 英会話を勉強していた広田明彦さんはいつの間にか英語の先生に日本語を教えるようになった。ところが、文法や表現方法を教えるのが難しくなったという。
「日本語を教える勉強をしなくては――」

 そんなことがきっかけで、ヒューマンアカデミーの日本語教師養成講座に通うようになった。
「勉強する内容がみな未知の世界で新鮮でした」
 講座では教授法はもちろん、日本に定住する外国人のことなど社会情勢から始まり、日本語の特性についても学ぶ。
「苦労よりも習得する楽しさが先に立ちましたね」

 講座を修了後、在日外国人を相手に個人レッスンを始めた。しかし、すぐに飽き足らなくなり、多くの人に教えたいと思うようになった。そこで、大学で都市社会学として定住外国人について研究している兄に、日本語教育で何が必要か尋ねたところ、「地域のボランティア活動に目を向けてみてはどうか」とアドバイスを受けたという。

 広田さんはさっそく足立区役所を訪ねた。足立区には2万2千人の外国人が住んでおり、その数は東京23区で3番目に多い。そのため、地域との共生に積極的な政策を取っているからだ。
「足立区は日本語教師ボランティアの歴史が古く、これまでに14カ所の教室を開いていたんです。そして、15番目の教室の設置に快諾していただきました」

 2007年11月11日、7名の受講生を迎えて教室はスタートした。毎週日曜日の午後2時間の教室だ。現在、口コミや区の紹介で80名の外国人が出入りするようになった。中国人がほとんどだが、韓国やフィリピン、ヨーロッパやアフリカなど多岐にわたる。すると、これまで広田さんの外国人に抱いていた概念が大きく崩れたという。
「何国人だからこうだ、という十把一からげの判断はできないということがわかりました。直に接していると、一人ひとりの顔が見えてくるんです。勉強の仕方もそれぞれ違います。個を持って分散している、これは新たな発見でしたね」

 さらに、広田さんは日本語教室に課せられたもう一つの役割に気づく。
「外国人には病院や保育所、学校、防犯など日常生活を送るうえでの情報や手助けが必要。それには地域とのふれ合いが重要なんです」
 そこで、日本人との交流もできるバーベキュー大会など野外活動を取り入れた。こうして普段から顔の見える付き合いができれば、地域の防犯にも役立つ。広田さんは「日本語教室という枠を広げ、"コミュニティセンター"にしていきたい」と話す。

 だが、問題点もある。教室は区が借り上げているが、教師や教室を支えるスタッフはみな無償、教材の準備や交通費、飲み物などの準備も自費だ。広田さんはこう指摘する。
「教師もやる気はあっても、持ち出しが多くなるので経済的負担が大きくなり、いつか限界が来る。学習者も授業料が無料だと、どこかでやる気がなくなる。外国人との共生を本当に考えるのなら、自治体も必要な予算を組むべきではないでしょうか」
 広田さんの問題提起は今ある日本語教育の現場の課題と、日本と在日外国人との付き合い方を問う。

 広田さんは現在54歳。電気化学計測器メーカーで働く技術者であり、週末は日本語教師という二束のわらじだが、「日本語教師は普段の仕事とは違う感覚。学習者の目の輝きが生きがいになるし、ふれあいで教えられることがたくさんある」という。
「行き場を設けておくことが大事。それがあって、仕事も継続できるんです」
 退職後の生きがい探しも早めに準備するに越したことはない。
(2009.3.12)

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