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りらいぶジャーナル

退職者の能力を活用、地産地消・食育に挑む

◆暦を読み、経営の運気を知る◆髙嶋香月談話室◆

 暦から運気を読み、企業経営などの指導をしている髙嶋香月氏。今回、伊勢の老舗食品メーカー社長を招き、「第3の創業」にかける熱意を聞いた。
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浜﨑與吉(はまざきよきち)●1945年生まれ。株式会社浜与10代目社長。海の環境を守り漁村文化を継承しながら、健康に役立ち安心・安全な食品づくりを実践。
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●浜与本店
三重県鳥羽市から船で約30分、人口約3000人の漁村の島、答志島にあり、網元時代を含めて約200年続く老舗。黒ちりめんは第55回全国水産加工たべもの展で大阪府知事賞、かき佃煮は同じく消費者大賞受賞および第56回で水産庁長官賞を受賞した。そのほか黒ちりめんとカキを使ったイタリア風ソースなど新商品の開発にも力を入れている。
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髙嶋香月(たかしまこうげつ)●1939年生まれ。髙嶋易断文化研究所所長。全日本髙嶋易断総本部会長、象山翁に入門。ビジネスを始めとする重要な決定時に暦を役立てようと会員制で企業経営者らの鑑定を行う。
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髙嶋 浜﨑與吉さんは伊勢で海産物加工食品会社を営む「浜与」10代目社長でおられます。ただ何も10代まで平々凡々としてきたわけではなく、先代、先々代には戦時の苦労がありますし、4代前にさかのぼれば明治維新で西洋の文化が入り日本独特の食べ物も変化しました。浜﨑社長が東京に来られるときには早朝から築地市場を見学されるほど研究熱心です。そして今年、私は浜与さんの振興の年と見ています。

 さらに浜﨑社長は定年退職者を積極的に採用されています。なぜかというと、その方々には浜﨑社長ご自身にはない営業スキル、システムに長けているという期待があるからです。ところが全然役に立たないということもあると聞いています。肩の力を抜かないで裃張りで、おれは一流会社の何々だと肩書きを振りかざす。でも、そんな人も会社を辞めたらただの"おっさん"です。そういう意識を捨てて浜与さんにどう貢献できるのか、それを考える人は事業経営者から見て有能な人材になるわけですね。

 同時に今の時代、地産地消、また産地直売という流通変革によって生産者から消費者に直接つながっていきます。そうした販売・流通に携わる優秀な退職者がほしいと社長はおっしゃいます。
 今日は経営者の苦しみとリタイアする人たちへの力づけも含めてお話をしていただきたいですね。

浜﨑 私の会社は三重県鳥羽市から船で約30分渡った答志島にあります。島には3集落あり、人口約3千人、漁業者主体の漁村の島です。私自身を振り返りますと、15年ほど魚類運搬船に乗って魚介類を加工したり鮮魚出荷したりという営みをしていました。それから船乗りと加工工場との併用が5年ほどあり、以後25年くらいは完全に陸に上がっています。

 そしてここに来て第2、第3の創業の時期だと思っています。それまでは中央卸売市場を含め問屋さんにお世話になっていたことが人生の大半でした。けれどもリーマン・ショック以降消費が冷え込んで、お世話になっている先々が非常に苦しんでいます。卸売市場の再編もありますが、大手スーパーマーケットがPB(プライベート・ブランド)商品を作る時代になってマーケットが非常に縮小していること、さらにこの先日本の人口が減少すること、食品業界でも大きな再編が起こっていることなど急激な社会変化があります。そういう状況に立って、これからどうグローバルに生きるかということが私たちの課題になるわけです。

 そこで私はいま一度商業人に立ち返って何をやるのかという構造から見直さなければならない、経営理念の深掘りが会社の方向性だと思います。さらに生き抜くためには製造・販売一体の企業努力が急務ではなかろうかと、今年は挑戦の年というチャンスをいただいたと考えて、新たにふんどしを締め直した次第です。

 そして、「海の命を人の命に届けるものづくり」を最大限努力しようということです。

髙嶋 それが浜与さんの一番のコンセプトですね。そういう意味では浜与さんの企業理念や商品がまさにシニアマーケットにぴったりだと思います。

浜﨑 それに加えてもう一つのコンセプトは環境と文化の継承です。昔の伊勢湾周辺は工場排水で海が汚されました。それは解決されましたが、代わっていま問題になっているのが生活排水と乱開発です。川の上流の山が削られ団地ができ、さらに山のミネラルが海に注がれるシステムがダムによって削がれて、結果的に海の活力が衰えてしまっているというのが現状です。

 毎年6月に島で行われる稚魚稚貝愛護パレードで小学生が「アワビの歌」を歌います。その歌詞のなかに、アラメの散歩道を子どもたちが歩いていると、大きな腕が伸びてきて友だちをさらっていったという内容があります。それは海女さんがアワビを取っていったということなのですが、いまから30年前は海女さんが白装束で海に潜ると体が見えなくなるくらい藻場がうっそうと茂っていました。答志島は伊勢志摩でもアワビの宝庫なのですが、以前は4時間潜って上がってくると午後3時半ごろ入札して5時に受け取りが始まり、それを夜中の1時、2時まで行っていました。ところがいまは5時に受け取ったら30分で終わってしまいます。つまり藻場が激変したというよりなくなったのです。

 するとこれからは何が大事かというと、まだ食品になっていない資源、未利用資源を開発して漁師さんに夢を与え、漁村文化の継承につながるような啓蒙活動をすることです。特に昨年暮れ、カタクチイワシとコウナゴの商品開発は農商工等連携事業計画(注1)に認定され、今年から販売するチャンスをいただきました。

 それと環境にやさしい事業運営をするということ。それが後世の漁業文化にプラスになります。
 この3つの事業活動をするうえで経営理念の深掘りが不可欠だということです。

 そうした考え方で商品も改良しています。例えば黒ちりめん。これまで市場に出すものは漂白したり着色したりしていましたが、考え方を変えました。消費者が何を求めているか、海の命を人の命に届けるにはどうすべきかというと「健康」「安心」「安全」です。それなら無添加が一番です。ちょっと早くカビが生えますが、それを貫いてブランド化したのが5年前。2006年には第55回全国水産加工たべもの展で大阪府知事賞を受賞しました。それから日本橋三越さんや高島屋さんなど有名百貨店にお世話になるようになり、私らの考え方と商品が動くようになってきたのです。当初はよちよち歩きしたが、ようやく理解していただく時代が訪れました。

髙嶋 消費者が見逃さなくなってきたのですね。この5年間に社長の考えたとおりになってきたというわけです。

柔軟性が経験を生かす

浜﨑 私は「伊賀の里モクモク手づくりファーム」(注2)の木村修社長、吉田専務と親しく付き合わせていただいていまして、お二人からいろいろな考え方を吸収させていただいて、事業に生かしています。

 昨年は特に製販一体を目指すために商品開発のスピードをこれまでの10倍速めようと、元レストランのシェフと契約しました。なぜ一度に契約していたかというと、それまでに私どもの商品を10数年納めているのですが、当初と15年経ったいまとシェフの人柄が変わらなかったからです。それで定年退職するとお聞きしましたので、うちに入ってもらって商品開発を担当していただいているのです。それほど開発に力を入れています。

髙嶋 もっと多様化を目指すのですね。

浜﨑 そうです。単品では消費者も飽きてしまうので商品開発と販売をテーマにしようと、髙嶋先生にお世話になりながら、社員一人ひとりの人脈を生かしながら全員野球でチャレンジしています。

髙嶋 浜﨑社長はいろいろな人脈、ご自分の事業、社会全体の動き、そしてお付き合いされている方々や異業種交流での意見交換、それらを社長の苦労してきた土台の上に積み上げてきています。昨年はイタリア料理のシェフと契約しようかどうしようかと迷ったことがありましたね。ただ、日本独自のものも大事だけれども、時代の変遷や食生活の変化で日本人も外国料理を普段から食べるようになったのですから、黒ちりめんとカキを使ったイタリア風ソースなども開発しています。

 このような商品開発と製販一体という方針を打ち出すときに、長年の経験を持った定年退職者に着目していたということですね。そういう人たちの力を借りることをもっと認識することが我々も必要なわけです。ただ、この人たちは退職前の組織とは違い、新しい仕事で会社にどう貢献できるかと、頭の切り替えをしてもらわないと逆に看板外しになってしまいますね。

浜﨑 私のように変わった社風の会社に来ていただくのですから柔軟性が重要ですよ。一番のポイントは人間性。それから営業経験者だったら営業に卓越していること、開発だったら今までの実績をより磨いていけること、いずれにしてもいままでの実績を生かして私どもの社風に合わせていただける人材を面接しています。すでにうちで定年を迎えた人を数年延長しました。こういう方々が一番の戦力になります。

髙嶋 御社の社風に受け入れやすいものがあるのですか。

浜﨑 方向性が明確になっているので働きやすいと思いますね。来てくださいと口説いたときと実際に仕事をするときとのギャップがないようにするのが私らの信用です。それは浜与の味と鮮度が消費者を裏切らないことが私どもの生きる道であるように、人付き合いでも同じです。

髙嶋 すると社長の生き方そのものが人も引きつけているということですね。社長はいろいろな会合に出かけ、そこでいろいろなものを吸収して自分の血や肉にしている。営業方針は確固たる信念の上にできるものです。だから一流店の仲間入りをされているのです。将来的にはエンドユーザーと直結できるように望んでおられますが、そのために品評会に積極的に出品され、受賞もされています。さらにそこに退職した方の力を生かしていることがお互いにいいことなのです。

地産地消を推進

髙嶋 これから商品の開発力を高め、多様化すること以外にどんなことを考えていますか。

浜﨑 企画ですね。企画は女性の視点に立たないといけないんですよ。マーケットは女性、その先に子どもがいます。

 ただ直販にするときに気がかりだったのは、いままでお世話になっていた問屋さんを飛ばして直に消費者につながるので、なかなか踏み切れなかったのです。そこで考えました。商品を変えれば失礼にならないではないかと。それでいままでの商品も改良・改善しながら、さらにそれ以上に消費者に直結する新しい商品を生むということにしたのです。

髙嶋 今日の会社があるのは買っていただいた問屋さんのお陰だと、みんな思っています。その商道徳は壊すわけにはいかないですね。それを守りながら、いかに企業の存続と拡大のためにがんばるか。そこにはやはり有能な人材が必要です。

浜﨑 販売にはリタイアした経験豊富な営業員と個別に契約しています。
 それから浜与のお客さんは首都圏が中心であとは大阪と名古屋です。そのエンドユーザーに直接行くにはまず足元を固めたい。それで地産地消を推進していこう、地域に浜与を理解してもらおうと、近鉄百貨店四日市店に店を出して2年ほどになります。最初の1年は苦労しましたが、2年目から固定客が着いてきました。

食育を事業の要に

髙嶋 4年前に新工場も建てられましたね。ここはすごい設備です。

浜﨑 それもHACCP(危害分析重要管理点)(注3)対応としました。なぜかというと、日本の人口が減っていくのでグローバルに販売していかなければならないことがわかっていますから、当初コストはかかるけれども基盤整備をしたのです。

髙嶋 今春から工場で日曜市場を開きますよね。浜与本店は答志島に行く船が発着する港にあります。ですから観光客に立ち寄ってもらえます。

浜﨑 まずは地域の人に来ていただいて、それを見た観光客が立ち寄ってみたくなるようにさせるのが狙いです。それで工場の一部に店を作りました。これから食育がもっと重要になると思います。水産加工業はいわゆる3Kなのですが、それを食育として見ると、専門家としてお客さんに伝えられるものがあるのです。すると社員の意識向上にもつながります。そのお手本がモクモクさんでした。

 自分が食べたいものを自分で作っていた時代から、都会に人口が集中して食べ物の生産は地方で、さらには海外でというのが今の時代でしょう。でもこの問題を長い目で見れば、また元に戻りますよ。そのためにいまから地産地消で鍛えて会社の機軸を作って、それが魅力になればよりよいのです。そこが我々の構造改革の要です。

気づきが人を成長させる

髙嶋 会社が進むのは右か左かと選択をするとき、右に行けばこういうことがある、左に行けばこういうことがある、しかし社長のコンセプトで行くと苦労もあるけど左だ、そしてその時期はここですよとフランクに話をさせていただいています。働く側も人格と素直さが必要ですが、浜﨑社長はよく人の話を聞きますね。それから社会情勢も含めていろいろな情報を収集して、それらを咀嚼(そしゃく)して、こうあるべきだと判断されることは口で説明できないくらい難しいことですよ。でも、それができる会社が生き残る。

浜﨑 新工場と本店をつくるときは儲けもあったし、でも設備投資にはコストがかかるし、正直あまり乗り気ではなかったんですよ。けれどもいまはそのことで社員が一体となって、会社の方向性を隅々まで理解していただけるようになりました。

髙嶋 確かに卸だと何百何千と商品が出るけれど、本店だと1個何百円ですからね。でも本店の場所がいいんですよ、定期船が着く目の前だから。

浜﨑 本店を開いてから各百貨店の担当者に答志島まで来ていただきました。漁村文化に触れながら本店で炊き出しもして工場に寄ってもらうんです。いかに本物の原材料を使っているか、商品開発や販売の考え方を持っているか、本店をプレゼンの場所にしています。今度はそれを消費者向けにもやろうかと思っています。

 本店は去年5回ほどマスコミにスポットを当ててもらいました。マスコミが取り上げてくれるとPR効果が高いですね。それがブランド構築の早道かと思います。モクモクさんはこのことをいってくれていたんだとわかりましたね。

 それとジェイアール名古屋タカシマヤの地下2Fで1週間ごとに販売していますが、3年前はだいたい10万円ぐらいの売上だったのが毎年10万ぐらいずつ上がっていって、去年12月に35万でした。もう40万が見えてきましたので、だんだん認識されてきたんだと思います。

髙嶋 モクモクさんがいろいろ提案してくれても、結局浜﨑社長の頭が固かったらいまのようにならなかったですよ。将来を見込んで実行してきたことがすごいんです。

 後継者も考えていますよね。首都圏を始めいろいろな会合にその方をお披露目して、社長の苦労と共に責任感を覚えさせてください。社長は体の経験と世間で聞いた耳の経験、営業、ものづくり、企画と始終飛び歩いているわけです。今年はその集大成のときでもあるし、新しい時代に向かって線路を引いていかないといけない。社長と一緒に後継者もその線路を走る列車に乗って、今日は風が吹いているなあ、雨が降っているなあと感じてほしい。優しさと厳しさを兼ね備えて次につないでほしいです。

浜﨑 後継者の育成は回りもサポートしますが、できる限り責任を与え、人の成長の源は本人の気づきですから、気づくことに大いに期待しております。私もいろいろな方にアドバイスをいただき、浜与のあり方に気づいたわけです。会社の方向性を全員で理解し共有でき、これからはうまくいくと思います。

 7、8年前、誰も口には出しませんが、会社の調子がよかったので、私も含めてみな「浜与は大丈夫やんか」という気でいたのですよ。決算が一期ぐらい赤字すれすれでもいいかなと思ったことがあるんです。そうしたら本当にそのようになってしまった。社長がそんなことを思ってはいけませんね。これからはトップダウンではなく、みんなで築き上げる社風にしたいと思ったら、そのとおりに進んできた。だからみんなで気づいてみんなで築き上げる会社になると思います。

髙嶋 私も経営者のみなさんと話すことがよくあります。「こんな苦しいことは投げ出したい」ということは、気づきをさせてもらうために苦労させてもらっている、その苦労に気づきがあり、それでうまくやれるんだと。だから社長、もういっぺんがんばりなさいといえるのです。

 本日は貴重なお話をありがとうございました。

(注1)農商工等連携事業計画 2008年7月21日に施行された「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律(農商工等連携促進法)」に基づき、申請され認定された事業。

(注2)伊賀の里モクモク手づくりファーム 三重県伊賀市の農事組合法人。農業振興を通じた地域活性、おいしさと安心を追求した農産物生産、農業公園の運営などを行う。

(注3)HACCP(危害分析重要管理点) 原料の入荷から製造・出荷までのすべての工程において危害の予測・防止するための重要管理点を継続的に監視・記録し、不良製品の出荷を未然に防ぐシステム。