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りらいぶジャーナル

生きめやも

倉田東平著(個人誌「定年のち時々青春」発行会)2835円

 評論2編と小説4編を収録した異色の書籍である。著者は長年に渡り数多くの小説集、評論集を上梓してきた倉田東平氏である。

 評論2編は「温泉地旅館の明暗」および「リゾート法その残滓」と、いずれも観光にまつわるものである。とりわけ大型リゾート建設に異様な熱が入れられたバブル期と、その後の凋落に焦点が当てられている。大の旅行好きと自負する著者だけに、観光施設に対する観察眼は鋭く、観光不況とも呼ばれる現在において大型施設がなぜ廃れ、「隠れ宿」とも呼ばれる小規模な旅館などがなぜ好評を博しているのかをつぶさに分析している。

 小説4編はいずれもジャンルや時代設定が異なり興味深い。武田信玄の猛攻に抗した箕輪城主、長野業正・業盛親子を描いた時代小説「落城異聞」から、老いをテーマとした現代小説「生きめやも」まで、まったく異なる分野を鮮やかに描きぬく著者の構想力は特筆ものである。