Skip navigation.
りらいぶジャーナル

真夜中の図書館/図書館を作る 市民・企業・行政

辻桂子著(郁朋社)1260円

 「今日、図書館に行った」――。主人公の「僕」は「真夜中の図書館」、通称「マ・ヨ・ト」に出かけ、そこで見たこと、したこと、感じたことを日記のようにつづっていく。ある日はセレクトショップでTOMATOを買い、ある日は中庭で展示しているバイクを見、ある日は外国人の日本語教室でボランティアし、またある日は企業が作ったIT専門や農業専門の図書館を巡る――。

 これはもちろん現実にある図書館ではない。著者が住む町には公共図書館がないという。理想の図書館を作りたいという願いと実際の図書館建設運動からこの物語「真夜中の図書館」は生まれた。ここから新しい図書館、著者のいう「ほんとうの図書館」のイメージがふくらんでくる。

 著者は地域情報誌記者として職業人の取材をしていたことから、「1人の人間の人生は1冊の本に値する」と考えた。つまり図書館の主人公は人で、図書館は人を介した情報が集まり発信される情報センターであるというわけだ。実際に市民が作る図書館構想案を打ち出し、それが本書でも紹介されている。

 著者はブログを立ち上げ、市民が求める図書館の理想像を求めた。さらに「奇想天外な図書館空想物語」をブログで始めた。それが「真夜中の図書館」としてまとめられたものだ。同名でオールナイトのイベントも開催したという。

 そうした活動や空想物語のなかに、市民が作る図書館を中心としたコミュニティビジネスやファンドなど従来の公共図書館にはない発想が生まれている。新しい図書館の可能性を広げてくれる。

 ちなみに、ブログ「真夜中の図書館」は著者も期待していなかった中年男性の評価が一番高かったそうだ。