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りらいぶジャーナル

“養老の滝”

■言わせてもらおう 私の提言 -井口恒夫-

 マイペンライ・シリーズその3。
 クルングテープ(外国人はバンコクと言う)事務所の2階に上がる階段の下は物置になっている。何かのときに開けてみて驚いた。ざっと2、300本のジョニ黒やシーバスのビンが置かれ、中身が半分以上残ったものからほとんど飲まれていないものまで所狭しと詰め込まれている。

「こりゃいったい、何なんだ」
「パーティーで残ったビン、ここに入れているんだよ」
「それでこれ、どうするんだ」
「どうにもしようがないから、溜まっているんだよ」
「運転手たちにやればいいじゃないか」
「彼らは飲まないよ」

 外部の飲食店などで開催する会社全体や部門単位のパーティーでは酒類の持ち込みは常識で、その際会社から支給されるボトルの中身が半分以上残ると持ち帰り、半分以下のは置いてくるか捨てるそうだ。

「どうしたものかなあ」
「とにかくないことになっているけど、溜まるばっかりで――」
「そりゃあまったく困った話だなあ――。うんよし、仕方ない、このビン、俺が全部引き取ってやるよ」
「えっ! それはとても助かります。それじゃ、すぐにお宿に届けましょうか」
「いいよ、迷惑かけるから。2、3本ずつ持って帰るよ。――いや構わないよ、マイペンラーイ」

 これが帰国まで「変化なく」続いた。いや、ビンの置き場が階段下から私の机の下に変わったという変化はあったが――。


【井口恒夫】退職後に10代の若者たちに混じり、専門学校で調理師免許取得。食品衛生の仕事に携わりながら、地元の少年補導員としても活躍中