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りらいぶジャーナル

<2>ゆっくり話すことの難しさ実感

●三瓶香子

◆初授業から1週間のできごと
 私のいる学校も会社も共に定時は9~17時半なのですが、18時半から1時間、「夜の会話授業」を行うことになりました。終業時刻が遅くなるので、私の出勤は午後からということになり、2月9日から授業が開始しました。

 「夜の会話授業」の趣旨は「使える日本語をめざすこと」と「最低限のビジネスマナー」を身に付けること」です。検定試験で「日本語2級・1級」を取ったとしても、会話ができなければ意味がありません。就職先の会社が本当にほしい人は「日本語でコミュニケーションが取れる人」です。日本語を一から始めてたったの6カ月で使えるようにするなんて無茶な話ですが、私のやるべきことは彼らの若さに期待し、「話したい」という意欲をいかに引き出すかということです。

⇒西湖の散歩

◆駆け出し教師の反省点
*話すスピードが速過ぎた。ゆっくり、とにかく「ゆっくり」話すこと。

*なるべくみんなに日本語を話してもらおうと復唱してもらったが面白くなかった。自分のことや相手への質問などを、生徒本人が「考えて」「発言」する授業内容を考えること。

*一人ずつ話してもらうように心がけたら、人数が多くて一つのトピックに時間がかかり過ぎてしまった。発言に時間のかかりそうな生徒に対しては「後でもう一度聞くから考えておいてね」と言って時間を与えること。

*生徒によっては質問に対する答えが出るまでにとても時間がかかってしまった。授業終了時に次の授業の内容を伝えて、事前に考えてきてもらうといい。

*ある授業で、最後に3人ほど発言しないまま終わってしまった。「少し延長して良い?」と聞けば良かった。

*一つの授業に複数のトピックを入れる場合、日本語での説明がきちんと理解してもらえないと、トピックの変わり目がわかりにくい。

 ここの学校には、生徒から授業に意見書を提出するというシステムがあり、2回目の授業が終わったところでさっそくクレームをいただきました。このシステムは軌道修正が速やかに行えるので、間違えた方法を続けてお互いに無益な時間を過ごすことがなく、とても良いと思います。

 3点ほどいただいた意見の内容を大まかに言うと、①知らない単語・句型を使わないでください、②授業の内容を事前に担任に伝えて、生徒が理解できるかどうか確認してください、③情景対話を取り入れてくださいということです。

 これら意見への対応はできるだけ早くしようと考え、3回目の授業の最初に次のように説明・報告をしました。

 まず、「時間がない」と焦ってしまい、授業内容、というより、話すスピードが早くなってしまったことを謝りました。そして①について、私の授業の趣旨「日本人とコミュニケーションが取れるようになること」を丁寧に説明し、「日本人は教科書の内容通りには話してくれないので、申し訳ないけれど、それはできない」と伝えました。ただ、私の授業は「勉強して覚える」必要がないこと。「何となくでも良いから、聞いて話がわかることをめざす」を強調し、わからなかったら質問するように言いました。仕事においても「確認および質問」はとても大事なことです。できればこれを習慣付けたいと考えているのですが、これはまた難しいようです。

②は担任と交流します、③はできるだけ授業の内容を考えますという説明をして取り合えず終了。次のクレームがいつ来るのか、ちょっとドキドキします。

⇒西湖の遊覧船

 私は一般の日本人としてもとても早口です。まずはそれを注意しなければならない――ということは頭ではわかっているのですが、「ゆっくり話すこと」って難しいですね。緊張しているつもりはなかったのですが、やはり大勢の前で話すという普段の生活ではない状況は焦りを伴うものなのだと思います。

 生徒からの意見書の件で、この学校で会話を教えていらっしゃる先輩にご教授願いました。やはり私の言葉が「速い」ということ。私も生徒もお互いに慣れていないということ。そして「生徒は自分の鏡である」ということを教えていただきました。生徒が緊張していたら、それは自分が緊張しているということ。生徒が落ち着かなかったら、それは私が落ち着いていないということ。これはとてもわかりやすい助言でした。

 私が勝手に頑張ってもそれは空回りで、最終的には生徒本人のやる気にかかってくるので、私自身が「時間がない!」と焦るのをやめて、これからはそれぞれの生徒の話を聞きたいから授業をする、という気持ちでやっていこうと思いました。

⇒生徒たちと
 今は毎回生徒の反応を見ながら授業の内容をどうするか考えています。なるべく早く、より良いと思われる形を作り上げて、安定した授業を行いたいと思っていますが、これは本当に難しいです。そして、例えここで一つの形を作り上げても、これがそのまま別のクラスに使えるとは限らないような気がします。

 きっと人という生き物を相手にする教育は、それぞれの相手に合った形というものをその度に考えなければならないのでしょう。
 まだまだ始まったばかりの教師生活、がんばります!

さんべ・きょうこ●短大卒業後、ホテルなどでのブライダル関係のプロデュ-ス会社を経て、ソフト開発会社での開発デザインおよび新人マナー研修業務などを歴任後退職。在職中に中国に魅せられ、北京や山東省を中心に度々訪問。開封市(河南省)での短期留学や大連への2カ月の出張経験などを持つ。