Skip navigation.
りらいぶジャーナル

「シルクロードで日本語教師」が夢

ちょっとした出会いから教師の道へ
●山本省吾さん

 日本語教師として半年を過ごしてきた山本省吾さん(64)は「学生たちによい日本語をたくさんプレゼントしたい」と意気込む。しかし、「決められたことを授業時間内に終わらせないといけない。そのための時間配分が難しい」と苦労もあるようだ。

 山本さんが受け持つのは“中級の上”クラス。会話が中心だ。学生にはより多く話をしてもらう。政治にかかわる漢字を覚えたり、アクセントによって変わってしまう言葉の意味を確認したり、グループディスカッションやディベートなどを行ったりしながら授業を進める。

「学生が『わからない』というのは教え方が悪いということ。短い言葉できちんと学習内容を伝えなければならないので、そのための教案作成に時間をかけています」

 山本さんが退職したのは2年前。義母の介護を手伝いながら、これからどう生きていくかと自分のことも考えなければならず、図書館に通う毎日を送っていた。そんなある日、『あなたもなれる! 日本語教師』という本を見つけ、ハッとしたという。

 山本さんは20年にわたって臨済宗の寺で座禅を組んでいる。10年前、そこへ一人の男性がやってきた。「その男性は『退職してから日本語教師として中央アジアに行く』と話していました。その方はたった一度しか座禅には現れませんでしたが、本を見て急にそのことを思い出したのです」

 それからインターネットで養成講座を検索、昨年4月からKCP地球市民日本語学校附設日本語教師養成講座に通い始めた。12月には修了、今年1月から同校の日本語学校で教えている。

 山本さんは光学レンズや照明機材、プリント基板など技術系の職場を歩いてきた。シンガポールに駐在しながら東南アジアを始め各国に出張していたこともあるという。そこでは英語がコミュニケーションツールとなるが、世界中にいろいろな英語があることを実感した。

「インドにはインド英語、オーストラリアにはオーストラリア英語がある。あるときアイルランドの技術交流会議で、アイルランド人とアメリカ人がお互いにそれぞれ前置詞の使い方が間違っていると議論していたんです。それと同じように、韓国には韓国日本語、アメリカにはアメリカ日本語というように、日本語にもいろいろな日本語があっていいのではないでしょうか」と話す。それは例えば、日本人には発音しにくい英語の音があるのと同様に、日本語にもその国の人によって発音しやすい、しにくいといったことがあるからだ。
「教師としての立場でいえば正しい日本語を提供することが大事ですが、最終目的は日本語でコミュニケーションできること、意思疎通を図れることが重要だと思います」

 若い学生とのギャップも感じていないという。様々な人の価値観を受け入れることの重要性はこれまでの社会経験ですでに実感しているからだ。

 現在、東京都内で教える山本さんだが、「シルクロードで日本語を教えたい」と夢見る。禅仲間と毎年、第3代天台座主の円仁が修行した五台山や長安への旅路をたどっていることから、いまの仕事を生かしたいと考えるようになった。

「あの日の出会いと本との出会いがなかったら、私はいまここにいなかったし、シルクロードで日本語を教えたいなどとは思わなかったでしょうね」
 ちょっとした出会いだが、山本さんにとっては大きな出来事になった。
(2010.07.16)

★バックナンバー⇒こちら