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りらいぶジャーナル

『バンコク バス物語』

水谷光一著(めこん・2008年11月25日初版第1刷発行)
1800円+税


 バンコクを縦横無尽に走る様々な路線バス。これを使いこなせたらどんなに楽しいだろうと思っていた。スカイトレインBTSや地下鉄MRTはまったく問題なし。だが、路線バスだけにはどうしても乗れない。好評とされる日本語のバンコク・バス路線図でさえ何度見てもチンプンカンプンである。ところが、そんな「乗らず嫌い」の不安を一気に吹き飛ばす快作が刊行された。

 本書は社団法人日・タイ経済協力協会(JTECS)の機関紙「友の会ニュース」に連載されている人気コラム、待望の書籍化である。毎回この記事を読むにつけ、「これが一冊の本になったら」と思っていた。しかも全編上質紙、オールカラー版での刊行だ。バンコク市内から郊外へと走る路線も含め、全八路線(11番、80番、8番、113番、511番、68番、516番、551番)を様々なエピソードと生活感あふれる写真の数々で紹介した内容はまさに水谷ワールド。バンコクのバスをこよなく愛し、日々これを使いこなす筆者ならではの素晴らしい内容だ。

 およそ世界のどの町でも、人々の暮らしを肌で感じる最も手っ取り早い方法はその町を走る路線バスに乗ってみることである。ところがこれが実に難しい。よほどその町に精通していないと、なかなか地場を走るバスには乗れないものだ。見知らぬ町でバスに乗るには「言葉がわからない、ちょっと危ないのでは――」といった先入観念があるものだが、実際に乗ってみると人々の優しさや人情に触れるのもまた路線バスならではである。

 本書における筆者の視線は優しく、その先には飾らぬ庶民のバンコクがある。これはもう「文化」の領域だ。タイを知るに最高の一冊であり、実用ガイドブックとしても見事な出来映えである。本書を片手に8日間、様々な路線バスの旅を楽しんでみたい。観光ガイドを超えて、一歩踏み込んだほんとうのバンコクを体感したい方々にお薦めの好著であり、著者水谷氏には続編・続々編を期待してやまない。

◆バックナンバー
『闇の子供たち』

【小田俊明】旅行作家。大手エンジニアリング会社に在職中、中東を中心に世界各地の大型プラント建設プロジェクトを歴任。早期退職後、2002年より執筆活動に入る。タイでは同国政府観光庁他の要請により、日本人にまだ知られていないタイ各地を巡り、その魅力を現地バンコクの情報誌等を通じて紹介。中高年層にも向く新しい切り口の紀行エッセイとして『ウィエン・ラコール・ホテルの日々』(文芸社)にまとめる。R&I-Webにコラム「まだ見ぬ癒しのタイランドへ」連載中。