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りらいぶジャーナル

詩集 塔の鐘

加藤幹二朗著(詩人会議出版)2000円

 詩集というと、風景や自然などを眺め沸き立った感情をしたためる「叙情詩」を連想しがちだが、本書収録の詩の多くは宗教の歴史や現実を描いており、日本には珍しい「叙事詩」の形式に近い。しかも著書は牧師であり、キリスト教にまつわる世界各地の「聖地」を巡礼して詩をしたためているというのだから興味深い。

 聖地巡礼の旅は世界中に及んでいるが、中東の国シリアが中心となっている。イスラム教とキリスト教(主に東方正教会)がいまなお激しく入り乱れる地だ。そのため国際的な政情は不安定であり、米国からは「テロ支援国家」として指定されている。そうした地で、70歳を過ぎたいまも聖地巡礼を続ける著者のバイタリティには頭が下がる思いがする。

 詩は古代の歴史から現代の政情までをもつまびらかにしているもので、当地の姿を克明に描き出している。世界史好きや国際情勢(特にキリスト教とイスラム教の衝突)に関心がある人にも、ぜひお勧めしたい一冊だ。