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りらいぶジャーナル

いくつになっても恋を

愛の物語をしたためた山村靖さん
『無伴奏の宴』山村靖著(文芸社)

 小説に興味はなかったという山村靖さんがふとしたきっかけで村上春樹の作品『国境の南、太陽の西』を手に取った。それが彼女を虜にした。以降、村上の作品はすべて読んだという。さらに読むだけでなく、彼女のなかの「書く」という衝動をも突き動かしてしまった。「体で感じてしまいました。それで書きたくなったのです」


 彼女の著したのは年を重ねた男女の恋愛小説。登場人物の視線、二人を取り巻く情景描写などその表現方法にも村上の影響が強く現れている。
 大学卒業後、様々な職業を経験した山村さんだが、再就職支援のキャリアカウンセラーとしての実績も持っている。自身の経験のみならず、このカウンセリングを通して見えてきた人生が物語のベースとなった。


「様々な人生があることに、そして人間の心の反応を探ることに関心がありますね。そこで感じたのが、年を取ったら恋愛できないという考えが幸せを逃しているのではないか、ということでした」
 恋愛に限らずいくつになっても新しいことはできる、そんなメッセージを愛の物語に込めた。

「カウンセリングのなかで、特に男性は企業社会に飲み込まれ、狭い世界で生きているということが見えてきました。そしていよいよ定年後を考えるときが来たとき、まず奥さんとのコミュニケーションが取れないんですね。それで結局同僚と飲み屋で管を巻いている。それではもったいないですよ。奥さんとの関係修復も含めて、新しい世界に飛び込まなければ」
 新しい恋愛があってもいいと山村さんは言う。「その恋愛にもいろいろな形がある。人生における一つの断片だと思います」

 山村さんはいま、緑豊かな丹波地方の一角、樹木の美しい庭に囲まれた瀟洒(しょうしゃ)な家に暮らしている。「私のピアノの先生のご主人がチェリストで、ご夫妻のデュオの演奏会を企画してファンを増やしていこうという活動を始めています。それで昨年、いままで住んでいた横浜を離れて兵庫に移り住みました」。音楽と自然とに囲まれた環境のなかで、人と人との微妙な心の絡み合いをテーマに、次なる物語の構想を練っているという。

「年代的にも広がりのある、もう少し人間関係が複雑な作品を書きたい。それにストーリーが流れていくような小説よりも、人と人とが紡ぎ合う関係性の描写を通して、何となく進んでいくようなものを書いていこうと思っています」
 山村さんの音楽的感性も相まって、彼女独自の表現が今年どう深まっていくのか、期待したい。

●『無伴奏の宴』山村靖著(文芸社)1155円
(2010.01.22)


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