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りらいぶジャーナル

“売れる自分史”への挑戦

プロレス誌の現場に生きた鈴木容子さん
『ゴングを鳴らせ』鈴木容子著(源流社)

 最初は違うタイトルで出そうと思った。「そのタイトルでは売れません」と編集者に反対された。書店で読者に手に取って読んでほしいと思っていた。それなら「ゴングを鳴らせ」にこだわるべきと強く勧められた。

 『週刊ゴング』。往年のプロレスファンには懐かしい雑誌だ。その雑誌の黄金時代から終えんまで編集スタッフとしてかかわった女性の手記である。でもプロレスの内幕本ではない。

 著者の鈴木容子さんは雑誌の黄金時代を数少ない女性の「レイアウター」として駆け抜けた。しかもプロレス雑誌というこれもまた特別な熱気に満ちた「現場」で働くという興味深い経験を得た。
「もともと自分史として、一人の女性の生き方として書きたいと思っていました。でも書店に並べて人に読まれる本にしたかった。単なる記念出版にはしたくなかったのです」

 子どもを生んで働いている女性が少ない時代。ましてや当時のレイアウターの世界に女性はいなかった。深夜まで女性が働いていると色眼鏡で見られた。
「近所の女性からはやっかみや冷たい視線を浴びましたね。服装も流行の服を着たりしていましたから」

 しかし少ない時間ながら子どもたちと過ごす時間をどれだけ大切にしていたかもきちんと描かれている。
「この本が出たときにはプロレス関係の書棚に平積みにされていました。息子たちが書店で写真を撮りに行きました。地元の書店や山下書店、書泉グランデにはショウウィンドウに並びました。面白い時代を生きてきたから書けたと思います」

 自分史であっても良い編集者と組めば書店販売が十分通用する本ができる。本書はその良い見本となった。

●『ゴングを鳴らせ』鈴木容子著(源流社)1500円+税
(2009.9.10)


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