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りらいぶジャーナル

市井の表現者らのメッセージ発信

自費出版図書館理事に就任した佳矢玲以子さん

 一つのテーマについて複数の書き手が執筆し、その作品を1冊の本にまとめるアンソロジー。その手法を用い、新しい自費出版の形を作っている佳矢玲以子氏が自費出版図書館理事の一人となった。商業出版でもヒット作を生み出してきた佳矢氏に、アンソロジーにどんなビジョンを描いているのか聞いた。

 人生の中で「言いたくても言えなかったこと」「誰も知らない秘密」を打ち明けることをテーマとした『沈黙の時効』(成星出版)はアンソロジーのきっかけを作ってくれた本です。全42編が収められていますが、これはすべて公募雑誌で集めた原稿をまとめたものです。このシリーズはその後、第9集まで続いたとか。

 それからは「トンネルを抜けると、そこには」「父の背中 母の背中」「もう一度あなたに会いたい」などといったテーマで同様に作品を募集し、『人生へのラブレター第1巻・もう一度あなたに会いたい』(愛知出版)にまとめました。その後も「あの歌・あの励ましがあったから」「あなたを忘れない」といったテーマでアンソロジーによる出版を行っています。

 これらは一般の人たちの体験がつづられた作品です。そこには世の中に訴えたい、社会に役立てほしいという書き手の強いメッセージが込められています。ただ散漫に自分史を書くのではなく、テーマを絞ることによって原稿用紙20枚程度にその主張が凝縮されています。

 ただ出版するには集まった原稿を選考する必要があります。そこで私は著名作家から選者の候補者を選び出し、片っ端から電話で依頼しました。興味を持ってくださる方がたくさんいましたが、ほとんど断られました。では評論家ならばと考え、最初に電話したのが吉武輝子先生だったのです。内容をお話しすると、吉武先生は「面白い」と興味を示されたので、私はすぐに飛んで行きました。その後、吉武先生は入院されたのですが、「これはすぐに取り掛かりましょう」とおっしゃってくださり、病室のベッドの下に隠しておいた原稿を医師の目を盗んでは読んでくださったのです。それからというもの、選者としてアドバイスをいただいています。

 私が若いころは経済が急成長していった時代です。デザインを勉強し、菓子店のポスター制作なども経験しました。その後、インテリア雑誌や単行本の編集も手がけました。そのうち時代はバブル崩壊へと向かい、行き場を失った男たちが話題に上るようになったころ、『椅子のない男たち』(廣済堂出版、1993年)を企画、編集しました。さらにその書き手として出会ったジャーナリスト、溝上憲文さんを著者に『団塊難民』(同、2006年)を企画しました。

 このような商業出版の世界に長くいたため、どうしたら読み手の心をつかめるかを知っています。自費出版でも書店に並べたいのなら、売れるものを作らなければなりません。そこで著者には、他人には真似できない、あなたの持っているよさをもっと前面に出しませんか、というアドバイスをしています。吉武先生もよくおっしゃっていますが、物語の対象と自分との距離を学ぶことが大切だ、自分の物語にどれだけ客観的に席巻できるのかが大事なのです。

 文章を書いて表現したい人たちの場として「書き人倶楽部」をスタートさせて3年。その中からいい作品を世に出していきたい、メッセージを発信し続けたいと考えています。そしてさらにリタイアメント・ジャーナルという場で新しい形を作っていきます。

かやれいこ●千葉県生まれ。文化学院でデザインを学び、卒業後は広告デザイン、新聞編集、単行本の企画・編集の第一線で活躍。
(2009.11.24)