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りらいぶジャーナル

乳がんにもっと関心を

――高度検診サービスと乳がん撲滅のために啓蒙活動
ベルーガクリニック院長/医学博士 富永祐司さん

 乳がん患者が増加している。特に閉経後にそのリスクが高まるため、より積極的な検診が必要だ。先進的な診断と患者本位のサービスを提供する乳腺外科専門の富永祐司氏に現状と対策を聞いた。

 通常、自治体などの乳がん検診は視触診とマンモグラフィー撮影で行いますが、私は2方向から撮影するマンモグラフィーと超音波検査、さらにエラストグラフィー装置検査を行っています。マンモグラフィーはレントゲン撮影による検査方法、エラストグラフィーは通常の超音波画像に特殊な装置をかけることによって硬さを診ることができます。

 また、より確かな診断を行うため、がんの疑いのある組織を取り出すマンモトーム生検を行っています。30分程度の検査で痛みもほとんどなく、乳房の変形もありません。

 多くの検診で行われるマンモグラフィーでは、実は7割程度しかがんを発見することができません。また乳腺の発達した人でも発見しにくく、むしろ超音波のほうがわかりやすいのです。しかし、微細な石灰化したがんはマンモグラフィーのほうが発見しやすいので、双方で検査しなければ早期発見にはつながらないのです。

 当ベルーガクリニックではこうした多様な検査方法を取り入れていることから、乳がん発見率が他の検診施設に比べ非常に高くなっています。

少ない乳がん診断の専門医

 乳がんには大きく2種類あり、一つは非浸潤がん、もう一つが浸潤がんです。乳がんの多くはまず乳管内にでき、それが徐々にしこりを作って乳管を飛び出します。この乳管を飛び出したものが浸潤がんです。一般に2㎝までのしこりのある乳がんで転移がないものを早期がんといっていますが、たちの悪いがんでは1㎝でも死亡率が10%になります。

 私は当院を開業して3年になりますが、これまで456例の乳がんを発見しました。そのうち2割が他の医療機関の診断で良性または異常なしと誤診されていました。毎年検診を受けていたのに、ここに来るまで異常がなかったという方もたくさんいます。

 私は乳がん診断のために病理診断を病理専門医に依頼してきました。しかし、いまや日本で乳がんにかかる女性が18人に1人と年々増加しているにもかかわらず、残念ながら正確に病理で乳がん診断のできる専門医が数人しかいません。乳がんの早期・超早期発見には高度な機器や精度の高い画像装置が必要なため、個人はもちろん大学でも機器の購入が難しく、また病理をめざす人材も非常に少ないのが現状です。

 こうした状況では、はっきりいってまともな乳がん検診は不可能です。現に自治体や企業が行う集団検診などは当てになりません。

 だからといって、マスコミなどが取り上げる、がん治療で有名な病院や医師を頼るのも間違いです。手術が上手いことと正しい検診ができることとはイコールではないのです。

ピンクリボン運動に疑問

 乳がん撲滅運動としてピンクリボンキャンペーンが行われていることはご存知だと思います。当院もその運動を推進しているNPO法人J.POSHのオフィシャルサポータに登録しています。

 ただし、先のようにきちんとした検診や医療制度が整っていないことから、運動が空回りする危険性があると思います。また自治体や企業がこの運動を正確に理解していないのではないかと思うこともあります。特に自社の女性社員に受診もさせず、ピンクリボンを付けるだけで商品が売れるという売名行為とでもいえるような企業が存在することに私は大きな疑問を感じています。

正しい知識と定期的な検診を

 こうした状況の中で、みなさんはいったいどうすればいいのでしょうか。

 まず、乳がんの増加は食生活と深い関係があります。かつて日本人の乳がんはほとんど見られませんでした。ところが、特に動物性脂肪を多く取るような欧米型食生活に変化してから乳がんが増えてきました。つまり和食への見直しが必要なのです。

 閉経後の乳がんも目立ちます。女性ホルモンに多くさらされること、そして肥満が原因となりますから、高年齢ほど発症のリスクが高まります。

 そして、みなさん一人ひとりが乳がんに対する正しい知識を持つこと。何も難しいことではありません。インターネットにも一般書籍にも乳がんに関する情報があります。特に乳がん診断のガイドラインを知っておくことで、その検診方法や治療法などの知識が得られます。

 さらに検診のためのお金と時間をケチらないこと。正確な検診、超早期発見には高度な診断機器が必要ですので、ある程度のコストはかかります。ただし、それはちょっとのぜいたくを我慢する程度のものです。そのためには家族の協力も必要です。検診を毎年受診できるような姿勢が大事なのです。乳がんは患者自身だけでなく家族にも悪影響を及ぼし、家庭崩壊につながるケースも多々あることをこの目で見てきています。

 少しでも無駄な検診をなくし、患者やその家族の悲しみもなくすことができるよう、私も常に情報を発信し続け、正しい検診を行っていきます。

とみながゆうじ●1962年生まれ。医学博士。乳腺外科医。1996年杏林大学大学院医学研究科卒業後、同大付属病院第2外科、昭和大学病院第2外科、関西医科大学病院第2外科を経て、2006年ベルーガクリニック開業、現在に至る。
(2009.11.13)