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りらいぶジャーナル

80年続く茶屋で気取らず宴会

森本孝弘さん

 神戸市須磨区の森本孝弘さんは地元ではちょっとした有名人だ。大手住宅・化成品メーカーを退職して、昼からカラオケの気まま(?)なリタイアメントライフを満喫している森本さんには、普通の退職者にはなかなか真似できないもう一つの顔がある。

 六甲山の最西端、標高253メートルの山頂に「旗振茶屋」と呼ばれる名所がある。江戸時代から大正初期まで大きな旗を振って大阪堂島の米相場を岡山方面に伝達していた場所で、それが名前の由来だ。登山者も多い。森本さんは昭和6年から続く旗振茶屋のオーナーでもある。

 もともとは父親の経営だったが、後を継ぐ気はなかった。父親が亡くなり、閉店しようとも思ったが、常連客の強い要望で今まで続けてきた。阪神淡路大震災で倒壊したときも苦労して再建した。金儲けをしたいと思って続けているわけではない、赤字が出ない程度でいいと森本さんは話す。

 土日・祝日には常連さんが集まって来る。缶ビール3本が入場料代わり。つまみはみんなで持ち寄って宴会が始まる。地元の芸能人が誘われて参加したが、特別扱いはない。それが気持ちよくて常連になったという。

 森本さんは現役時代から誰とでも仲良くなるのが得意だった。今は20代前半の若者を始め、あらゆる世代から相談を受ける立場になった。出世した偉い人も退職したら実は孤独。そんな人たちからもよく声をかけられる。森本さんと思い出話に華を咲かせるのが、楽しいからだ。


 「来年80周年記念会をやります。実は1年早いけど、古い常連さんの顔が年々少なくなるから、やるなら早いほうが良いと思って」
 そんな森本さんを慕って人が集まり、旗振茶屋は今も続いている。
(2009.09.15)