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りらいぶジャーナル

⑤ 声力は生力、元気の源

-釼持範勇-
(YSフィットネスクラブ呉服町インストラクター)

 現在、介護保険制度の見直し、介護士不足、老々介護など介護にまつわる多くの問題が世間を騒がしています。そこで今回は私がホームヘルパーとして働いていたときの話をしましょう。

 今から4年前のことです。当時、Mさん(85歳男性)はその3カ月前に病を患って入院しました。寝た切りの状態が続いたため脚力が低下してしまい、思うように動けなくなってしまったのです。すると、「もう嫌だ」「すべてに疲れた」「死にたい」などマイナスな発言が多くなりました。また一旦気分を害すと怒鳴り散らすことも多々あり、家族も対応に困り果てていました。

 そんなMさんの自宅に私はホームヘルパーとして入りました。介護内容は「生活介助」、自立を促すため「共に掃除」という介護計画でした。

 私がMさんと接して最初に感じたことは、Mさんはとても話好きということでした。けれども声力がなく聞き取れないことがしばしばありました。起き上がる動作も上手くいかず、立ち上がりも介助をしてやっと、といった感じです。そんなときは「もう嫌だ。何もしたくない」と嘆いていました。

 辛そうにしているMさんを見て、自分には何ができるのか、身体の介助はもちろんですが、もっと力になれないだろうかと考えたのです。そんなとき、ふと「心の介助はできないか」と思い、まずはMさんの昔話や好きな話を聞くことに徹しようと思いました。戦争の話、仕事の話、草花や盆栽、野鳥類の狩りをした話など留まることがありません。でも、好きな話をしているとき、Mさんは少年のような笑顔を見せました。それが素敵でした。

 3カ月後、そんなMさんに変化がありました。声です。活舌が良く、発声に力が出たことに気付きました。音量も上がり聞き取りやすくなったのです。同時にベッドからの起き上がりもスムーズになり、サイドレールにつかまりながら10歩は歩けるようになったのです。明らかに体力が付いてきたのです。

 5カ月後、それまでトイレへの移動は介助をしながら行っていたのですが、それも一人でできるようになりました。そのころにはデイサービスも利用することになり、大きな声でデイサービスでの出来事を聞かせてもらいました。

 見る見るうちに元気になっていくMさん。訪問終了時には毎回お見送りもしてくれるようになりました。何と言っても肌の艶が良くなり顔付きが穏やかになりました。この変化に家族も大喜びでした。

 サプライズとして、クリスマスには私からハーモニカ演奏のプレゼントを贈ったところ、涙を流して喜んでくれました。1年後には一人で庭に出て草木に水をあげることができるまでに体力が回復しました。その回復ぶりに医者もびっくりしたそうです。

 Mさんから学んだ経験は今の自分にとって最高の宝になっています。「いくつになっても、その気があれば変われる」と。
 体調の状態を見極めるには「声のボリューム」を見ること。元気が出ないときこそ声を出してみるのがいいかもしれません。

 ちなみに私は今、Mさんの影響を受けて盆栽を育てています。
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けんもつのりお●YSフィットネスクラブ呉服町インストラクター。タレント活動、介護士を経てフィットネス業界へ。詳細は⇒こちら