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りらいぶジャーナル

りらいぶ座談会 【これからのロングステイ】

問われるロングステイの新しい定義

 マスコミが作り上げた「年金でできる海外極楽生活」のイメージが氾濫(はんらん)したため、この10年、ロングステイの現場には「年金難民」があふれている。また、ロングステイの初心者にリスクの高い投資や長期滞在ビザ取得を勧めるビジネスが目立ち始めた。タイ・バンコクの政情不安、マレーシア・クアラルンプール(KL)の治安悪化など滞在先の情勢も変わりつつある。長年ロングステイの現場で初心者のサポートなど幅広い活動を展開してきたこの分野の“先駆者”といえる人々は、変質するロングステイの現状をどう見ているのか。
 リタイアメント情報センターでは、早くからロングステイに取り組み、情報交換や交流などサークル活動を行ってきた人たち、および観光学の側面からロングステイをとらえている研究者と意見交換を行った。そこではかつての「年金で暮らせる」というキャッチフレーズがいまだ信じられていることと現実とのギャップ、弊害、安全とうたわれている人気都市で日本人ロングステイヤーが犯罪に巻き込まれている現実などロングステイの現状と問題点が指摘された。

<意見をうかがったみなさん>
竹嶋 寛さん(ツーリズム学会理事)
古川作二さん(キャメロン会顧問)
宮崎哲郎さん(NPO法人南国暮らしの会前理事長)

「年金で安く」 いまだ独り歩き


古川 私はロングステイというのは1999年から2004年、05年ごろが弟1期で最初の成長期だと思っています。私たち「キャメロン会」の会員数も03年から今まで変わっていません。そして本来なら06年ごろから反省期、転換期に入らなければいけないところが、99年に始まった「年金で暮らせる」というキャッチフレーズがいまだに生きていて、意識の改革ができなかったのでしょう。
宮崎 「南国暮らしの会」は今年NPO法人化して10周年になります。当時はロングステイはハワイ、オーストラリアが中心で、マレーシアやタイではありませんでした。タイ・チェンマイは欧米からの滞在者の歴史が長く、それに日本人が便乗したようなものです。初期の時代からロングステイをやっている人は相当お金があった人ですね。
古川 それと、それなりのノウハウをお持ちの方ですよ。日本ではまだまだ最初の定義を引きずっています。
竹嶋 ロングステイの考え方や定義が実態とかけ離れてきています。ロングステイは今曲がり角に来ている、当時の発案者たちが思い描いたものとはかなり変わってきています。定義と実際の推進の仕方に問題があった気がしますね。まずロングステイに金がかかるというのはその通りで、それを最初に言わなかったことが大きな失敗です。

宮崎 この10年間でだいぶ変わっています。マスコミの「こんなに安く生活できます」という報道が盛んになってブームになりましたね。でも、いろいろな地域に行って感じたのは、ロングステイするにはそこそこ金がかかるということです。年金で安くというのは難しい。
竹嶋 例えば旅行の定義づけそのものでも変わってきています。世界観光機関ではかつて「定住地を離れて少なくとも100マイル、つまり160キロ先へ行って1泊以上して帰ってくるのが旅である」と定義していました。また、旅とは他人の火に触れること、他人の家の囲炉裏端で飲食を共にし、語り合い、その土地の人情・機微にふれることという定義もあります。でも今は時間や距離では決められません。私自身は、生きるための必要最低条件「衣食住」が充足された後に芽生えてくるのが「旅」への欲求であり、旅は知的好奇心を満足させ人生を豊かにするもの、心身を健康にするものだと思っていますが、同じようにロングステイの定義が実態と合わなくなってきています。
古川 日本に住んでいるときと同じような満足感を求めようとすると、決して安く上がるものではありません。特にノウハウの少ない人はそこに金をかけなければなりません。


竹嶋 ロングステイする人は「基本的に計画から実行までを自分自身で行うもの。自分でやらなければ駄目ですよ」というのが大前提です。それを事前にきちんと言わないから、いろいろ問題が起きるんです。まず誰でもできるというのは大きな間違い。これをメディアや関係機関はさらっと流してしまっているんですね。「ロングステイできる人はこういう能力がないといけない」という指摘がなおざりにされています。
古川 自己責任で済まなくなってきていますね。何か事故が起きてから、「自己責任ですよ」と言われても責任の取れないケースが多いんです。だから何らかのサポートは必要です。ならばサポートを受けられる、または責任を取れるように事前に情報を提供し、啓蒙しておく必要があります。それでも限界があることを認識しておかなければなりません。でも「年金で暮らせる」という安易なイメージが払拭できない。外国人を見習い、自立と自律を徹底すべきでしょう。

文化の違い、理解を深めて

宮崎 現地は違う文化なんだと意識しないままロングステイしてしまうため、現地の人たちと関わっていくときに、その違いを理解できないで不満が溜まるんです。
 また、以前はそうでもなかったけれど、最近は現地での生活経験もあまりないまま、いきなりロングステイビザを取ってしまいますから。ぼくは理解できませんね。銀行の積み立て金がどんどん上がるという傾向があったから、その前に今が買い時だということもあったんでしょう。
古川 それはあったと思います。ただ、取得が困難になったことは良いことだと思います。
――R&Iが作成した「初心者のための海外長期滞在ガイドライン」では、初心者はすぐに不動産を買う必要もないし、ビザも取る必要がないとはっきりうたっています。
宮崎 私たちの周りでは幸い不動産トラブルはあまり聞きません。ビザの取得は慎重にしなければいけないことはあると思いますが、取る取らないは自由です。ただ、マレーシアで見たのは、周りのみなさんが取っていて、「取ったおかげで得した」と言われて慌てている人の姿ですね。
古川 マレーシアは金額面でハードルを高くしました。近隣の外国人が簡単にビザを取って怪しげなビジネスをやり始めたためです。それ以降、高額な預金の残高証明書の提出を義務付けました。
宮崎 たぶんビザ取得のための「見せ金」を、自分たちで回してやっていたんですね。それから、治安の問題は悪いとは言わないけど、用心しています。
――最近、日本人がらみの犯罪が増えてきたと聞いていますが。
古川 KL日本人会の周辺で日本人がねらわれてきているようです。
宮崎 基本的にコンドミニアムの泥棒は多いですね。
古川 無防備、無用心な日本人の「獲物」が目立つのでしょう。
――日本人会の周辺も日本と同じ、という無防備の意識のままでいるから、そういうことが急激に増えてしまったんですね。日本人村的な感覚でいるために、そういうことも起きてしまっているのではないでしょうか。
竹嶋 日本人は「群れる」というのが問題なんですね。群れは地元の反感を買うし、何かあったときに標的にされることもあります。日ごろから現地の人々と接触していないと、被害者になったときに助けてもらえません。いかに現地に溶け込むか、そこをきちんと押さえないとロングステイは無理です。ですから、シルバーコロンビア計画がなぜ失敗したのか、それをきちんと整理しなくてはいけない。もし、日本の文化を伝える発信基地としての日本人村を造るということであれば良かったのかもしれません。ついつい円高基調に気を許して基本構想が雑になったようですね。

社会貢献の意味合いをより強く

――団塊の世代はロングステイに行くはずだと言われていたけれども、意外とそうではないようですが、いかがですか。
古川 最近、年金支給年齢の引き上げに応じて、定年後も3年や5年働かせる会社が増えてきていますね。
宮崎 5年は大きいですよ。65歳と60歳とでは体力的にも心理的にも違いますからね。早く仕事を辞めたいのに辞められない、でも行きたい。それで時々行くというスタイルになっているんですよ。
竹嶋 ロングステイをする目的を明確にすること、退職後の生きがいづくりとして社会全体で考えて提案していくという作業も必要ですね。現地の教育機関と連携して日本語を教えるという活動も注目されています。
古川 ワールドステイクラブ(旅行を趣味とするシニアサークル)では現地の大学の日本語の授業をアシストするというボランティア活動を続けていると聞いています。これはいいシステムですね。
――R&Iには中国の杭州と肇慶の2都市から、人生経験の豊富なシニアに日本語を教えてほしいという要望が寄せられています。
竹嶋 日本の文化を世界各国で伝えていく。そういう社会貢献的なウエートが高まっていくと、ロングステイの混乱したイメージも落ち着いてくるのではないでしょうか。
(2009.02.20)