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りらいぶジャーナル

今こそ、シニア教師活躍の時

東日本大震災以後の日本語教育
日本語教育コンサルタント 鈴木信之

 3月11日の東日本大震災、それにともなう原発事故は外国人に対する日本語教育に甚大な被害をもたらしている。多くの外国人が日本を離れて帰国し、また来日する意欲を削いでしまっているからである。留学生を受け入れて日本語教育を行う日本語学校、少子化傾向による学生数減を留学生で補ってきた大学や専門学校では深刻な問題となっている。特に原発事故は世界各国で日本に憧れる有為な人材の来日を阻み、世界に対する風評被害の典型例だ。

 実は、震災前から今年4月の新入生が昨年、一昨年に比べて大幅に減少し、各日本語学校は危機感を強めていた。ここ数年、日本語学校在籍者の3分の2近くを占めてきた大票田の中国からの新入生が日本への魅力減衰と欧米諸国の強力な留学生誘致政策にあおられ、激減していたからである。そこに原発事故が勃発し、現在の日本語学校の在籍者数は昨年同時期に比べて半減に近い。このままでは今年10月期以降も期待はできず、各校とも現地での日本留学希望者の激減に歯止めが効きそうにない。

 この国内の学生数激減は当然日本語教師の国内での職場激減につながる。現役の日本語教師ですら、その職場を失いかねない状況で、これから日本語教師を志望する人にはより厳しい状況といえる。

 だが、この大震災は、我々に多くの問題を提起している。とりわけ、日本の産業構造の底の浅さが目立ってしまったのではないか。自動車産業はもとより納豆や水に至るまで、些細な部品を日本国内での生産にのみ頼ってきた産業は大きな打撃を受けた。これまでの日本の産業のグローバル化は、口ほどにもなかったことが暴露されたともいえよう。

 今後の日本経済および日本の産業の行く末は、この大震災を契機に本来のグローバル化を真剣に推進せざるをえないと思われる。

 このとき、最も必要なのは国籍を問わない有為な人材の確保である。日本人の雇用も深刻だが、グローバリゼーションを推進していくには、外国人雇用の問題は日本企業にとって必須条件となる。有為な外国人の人材に必要なものは何か。それはやはり日本という国について、日本の企業文化について、より一層の理解を深めてもらうことで、その際、日本語力は欠かせない。人材確保戦略の最前線に立つのが日本語教師の役目である。

 中国をはじめ、世界中で日本企業の存在価値は今後も変わらないとする見方が強い。また、それらの国々には日本文化や日本企業に憧れ、日本語を学ぶことに意欲を燃やしながら家族の猛反対などにあい、来日を控えている若くて優秀な人材が多数存在する。

 そうした人々を対象に、海外で日本語を教えるネイティブの日本語教師の需要は今後ますます増えることが予想される。

 ただ、教師の雇用条件は現地での所得水準にリンクした形が一般的であるため、若い人や現在の生活を背負っている世代には引き続き海外生活を志すことは困難である。

 そこで注目されるのが年金世代ともいえるシニアの日本語教師だ。日本での生活に大きな不安を持たないシニア世代こそ、柔軟な思考力と指導力を持って、日本や日本文化および日本語の伝道師として日本語教師の役割を果たすべき時期に来ていると思われる。
R&Iで開催しているりらいぶサロン「日本語教師でトクする話」では、老若男女、現役教師から教師志望者まで、それぞれの悩みや相談、意見交換を行っている。ファシリテーターは筆者、鈴木信之さん
(2011.06.18)