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りらいぶジャーナル

タイで人生のリセット

七夜待(ななよまち)


 30歳の日本人女性が日常を離れ、タイで7日間の夜を過ごし、新しい自分を発見するという話題の映画を観ました。監督はカンヌ映画祭でグランプリを受賞した女性の河瀬直美監督、主演女優は長谷川京子です。

 旅行で訪れたタイで、タクシーでホテルに向かうはずの日本人女性、彩子がちょっとした油断と思い違いで田舎町のタイ人母子が住む家に迷い込みます。言葉もまったく通じない環境で異文化と触れ合い自分をリセットする内容です。ほとんど台本なしのアドリブで撮影されたというだけ、臨場感あふれる演技や観る人がストーリーを組み立てて行くような新しい表現方法がとても印象的でした。

 映画を観ていると、50歳を過ぎ初めて海外(タイ)に赴任したときの私と主人公の彩子とが何となくダブっていることに気がつきました。日本の常識を盾に海外に出かける日本人への示唆や異文化に触れることで、新しい自分や人生を見出すきっかけになることをこの映画は教えているように思えます。

 以下、印象に残った4つのことを述べたいと思います。

 1つ目は、彩子は曖昧な情報を頼りにタクシーに乗ったあげく眠ってしまい、運転手に襲われると勘違いします。海外では自分の身は自分で守れと言われます。日本人ははっきりものを聞くことが苦手なのも原因と思われます。幸いこの運転手は心の優しいタイ人でした。これは映画の演出と思われますが、私も同じような体験をしたことがあります。

 2つ目は、出演のタイ人、日本人、フランス人がお互いの国の言葉でコミュニケーションを開始します。言葉が通じないストレスに初めは苛立ちを覚えます。しかし、徐々に雰囲気は伝わり人間としての心のコミュニケーションがとれるようになります。これがまさに異文化コミュニケーションの第一歩だと感じました。

 3つ目は、タイ人母子の子どもの父親は生き別れの日本人だと知らされ、日本はどのような国なのかと問われます。彩子はとても良い国だと説明を始めますが、タイ人のような心の優しさを忘れかけている日本人を思い出し、言葉に詰まります。物の豊かさより心の豊かさのほうが大切なことを彩子は気がついたようです。

 4つ目は、この映画にはタイの宗教(仏教)観が随所に表現されています。母親は子どもをお坊さんにしようとお寺に預けることを考えます。息子の行く末を案じたうえの決断だったのかもしれません。
 タイ人男性は人生に一度は出家する慣わしがあります。女性はお坊さんになれないため、功徳を積もうと出家のできる息子にあやかろうとします。映画は断髪して出家する幼い子どもをみなで祝うシーンで終わります。

 団塊シニアにもロングステイ候補地として人気のタイですが、定年後の人生のリセットにタイを訪れる人も多くいます。偶然にも主人公の女性は30歳で団塊ジュニア世代です。親子二代に渡って人生の疲れを癒してくれるタイは、日本人にとっての第二の故郷なのかもしれません。【日タイ・ロングステイ・ネットワ-ク理事長 山下雅史】

「七夜待 ななよまち」
監督:河瀬直美
脚本:狗飼恭子 河瀬直美
撮影監督:キャロリーヌ・シャンプティエ
出演:長谷川京子 グレゴワール・コラン 村上淳ほか

<<上映>>シネマライズ、新宿武蔵野館ほかにて全国公開中
(08.11.20)