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りらいぶジャーナル

姉弟物語 姉は文学・弟は武道家

嘉穂ミエ著(樂書館)

 「普通に生きることは難しい」、多くの人は自らの人生を振り返ると、そう感じるのではないだろうか。
 著作を数多く出版している書き手がつづった自分史であり、12歳年下の弟との物語である。姉は文学を志し出版社に就職、職場恋愛の後に結婚するが、死産、姑との確執、離婚と人生の荒波にもまれ続ける。離婚後は生保のセールスを続けながら執筆活動を再開、その後、結婚相談所を経営する女性実業家となった。一方、弟は姉の援助で空手を習い始め、自動車メーカーを経て沖縄古流空手と古武道の一派の総帥となった。

 著者の人生の転変がつづられるなかに、弟との思い出が随所に登場する。故郷鹿児島の山野を駆け巡った幼少時代、弟が鹿児島を後の就職先の都市での再会など、弟を見る姉の視線はあくまでも「愛おしさ」に溢れている。

 しかし、突然訪れる弟の死。弟の死に姉はこう語りかける。「父母の死より、弟のあんたとの死別は悲しかった。私は今、この世は修業の旅路で、肉体は滅びても、魂は永遠に生きていること悟った」
 人それぞれの人生に「普通」はない。それぞれの人生を懸命に生きる姉弟の姿が読者の魂を揺さぶる。