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りらいぶジャーナル

希望の本質 Substance of Hope

Richard Stephen Sewell著・渡邉セツ子訳(新潟日報事業社)

 「収容所」という言葉からはドイツのアウシュヴィッツやシベリアを想起しがちだが、第2次大戦中は日本にも捕虜収容所が存在した。アジア諸国や連合国側の捕虜は約20万人に及び、日本各地の収容施設にて厳しい生活を余儀なくされた。本書は、そんな日本の収容所に送り込まれた、1人の英国人の捕虜体験記である。

 英国砲兵野戦連隊の一員として大戦に従軍した著者は、マレー半島へと出兵するが、1942年、山下奉文第25軍司令官率いる日本軍の前に英第18師団は降伏。シンガポールで1年間の捕虜生活を過ごした後、日本へと移送された著者は、新潟県青海町(現・糸魚川市)に存在した東京捕虜収容所第13分所へと収容される。ここでの生活は苛烈を極め、暴力も常態化していたという。長い苦難の末、辛うじて自由の身となった著者の残す体験談には真に迫るものがある。

 外国人、しかも英国人の手によって日本の捕虜収容所が描かれた書は、大変希少でもある。日本の戦争文献とは異なる、新たな視座を与えてくれそうだ。