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りらいぶジャーナル

葦雀の夏 ファンファーレがなくとも、馬はゴールをめざす

北澤繁樹著(東京図書出版会)1260円

 1960年代から70年代前半にかけて、全国の大学では学生運動の嵐が吹き荒れた。当初、政府や大学当局との紛争であったものが、東大安田講堂の攻防戦ごろを機として次第にセクト同士、セクト内部の「内ゲバ」が横行し始め、あさま山荘事件をもってして急速に失速していった。そしてその時代、当事者の大学生だったのが、いわゆる「団塊の世代」である。本書は学生運動全盛期の大学で出会い、一生の友となった仲間たちの人生を描いた小説である。

 著者本人も団塊の世代であることもあり、当時の大学生の生活や議論の様子が非常にリアルに描かれている。世界の歴史を縦横無尽に談じ、当時の日本の社会情勢を憂える彼らの姿は青臭くもあり、躍動感にも満ちている。

 そんな彼らも就職し、自らの人生を歩み始める。運動体に残った者、サラリーマンとして資本主義を支えた者、生き様は様々であるが、彼らの根底には同じ時代を生きたという強い結束力がいまなお息づいている。そう感じさせる一冊だ。