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りらいぶジャーナル

人との出会いが財産

東京から遠州の山村へ移住
シニアと若者との農業体験も

 田舎暮らしを希望する退職者も多い。出版物の企画・編集を行っている池谷啓さん(56)もそんな一人。昨夏、思い立ってこつこつと準備を始め、2月に東京から静岡県浜松市の山村、春野町に移住する。

 鮎釣りやカヌーの盛んな気田川を望む宅地400坪、農地1300坪を有する広大な土地を手に入れた。だが、町の中心地まで車で7分、図書館やテニスコート、リハビリセンターなど設備は整っており、浜松市街までも40kmほどと“ど田舎”ではない。
「農地では野菜と果樹を栽培したい。広葉樹も植え、鳥が遊びに来るような土地にしたいですね」と夢を語る池谷さんだが、その前に膨大な草取り作業と耕作が待っている。
「母屋が150㎡ありますから、いろいろな人たちと合宿して手伝ってもらいながら取り組みます。学生やシニアなど都市の人たちと農の拠点をつくろうと考えています」

 池谷さんは大学の広報紙に携わっていたことがあるため、ラオスで学校を設立するプロジェクトや地震で被害を受けた新潟県山古志村での救援活動など、いくつもの学生向けプログラムを企画、実施してきた。このような学生に退職者も交えて農業体験するなど、双方に刺激的なイベントも可能だという。

 池谷さんのリタイアメントは早い。36歳でサラリーマン生活にピリオドを打った。「企業に勤めていたときは、自分は何がしたいのか、何が好きなことなのか、わからないまま過ごしていた」。
 ところがインドを旅したとき、「What do you?」と聞かれて「サラリーマン」としか答えられない自分をつまらないと思ったという。その後、会社を辞め、たまたま募集していた宗教関係の出版物を取り扱う編集プロダクションに転職したという。
「以前から仏教など宗教に関心があったので、仕事をしていても疲れないんです」

 そこで編集技術を培って独立、「いちりん堂」を立ち上げた。企画、取材、撮影、執筆、編集デザインと何でもこなす。

 また過去に音楽やダンス、絵画、瞑想など様々なジャンルを超えたワークショップを都内で運営したこともあり、女性を中心に支持を得ていたこともある。都内に住んでいるときも近くの音大で開かれる定期演奏会に出かけたり、著名な科学者や文化人の講演を聴きに行ったりと東京ならではの楽しみも満喫している。

「都市での生活も好き。でも里山での生活もいいなあという程度」と、さほど田舎暮らしに強い思い入れがあるわけでもない。数ある「田舎候補」から春野町を選んだのも「ひらめき」だという。
「春野町だとひらめいたら、グーグルで『古民家』を検索し、ヒットした物件をグーグルマップにポイントして、地図を片手にしらみつぶしに回り、1軒目の物件に決めました。これも直感ですね」

 ただ、始めるからには情報収集に徹底した。
「春野町に移住している人たちのブログを見つけては手紙を出したりE-メールを送ったりしたんです。すると、その地域の顔役にはいつ、どのようにあいさつに行けばよいか、隣近所へのあいさつをどうするかと、いろいろなアドバイスをいただけました。こうして人につながること、いろいろなことがわかっていくことの作業と過程が楽しいですね」
 池谷さんは「一人の先達がいれば百人力。田舎暮らしを始めるには人が財産。これからの新しい人生を豊かにしてくれる人との出会いを大事にするように」と訴えている。
(2010.01.29)