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りらいぶジャーナル

死の哲学

西牟田久雄著(東京図書出版会)1260円

 我々が日常生活を送るなかで目を背けがちな死の問題。本書は長野大学産業社会学部教授、東京電機大学理工学部教授などを歴任した哲学者、西牟田久雄氏による死と哲学に関する思索が綴られている。

 いかにも難解そうなテーマではあるが、本書は大学生なども読者と想定していることから、非常に明瞭かつ平易な文面で語られている。ソクラテスや孔子など古今東西の哲人が死をどのように捉えたかなどが紐解かれるが、「メメント・モリ(=死を想え)」を強調する宗教とは対照的に「死」をテーマとした哲学書は少ないという、意外な事実についても記載されている。

 そして、著者自身の死生観も随所に織り込まれている。なかでも長崎県出身の著者は原爆の現実も目の当たりにしており、そうした体験談が一層、死をリアルなものとして感じさせる。そして、あとがきでは現在の著者が闘病中であることも明かされており、まさに死と向き合いながら書かれた渾身の一冊であるといえよう。