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りらいぶジャーナル

コミュニケーション力を引き出す 演劇ワークショップのすすめ

平田オリザ/蓮行著(PHP研究所)777円

 「舞台に立つということは観客との対話だ」――。ある演劇レッスンに参加した人はそう実感したという。舞台俳優は舞台の俳優同士のコミュニケーションだけでなく、観客とのコミュニケーションも必要だという二層構造にあることは本書でも触れられている。それが「演出力」であり、「演技力」「脚本力」とともに必要な「演劇力」を構成する3要素の一つだと共著者の蓮行氏は述べている。そしてこの演技力こそ、コミュニケーションの集積だという。

 本書のなかで、ある会社での演劇ワークショップのようすがドキュメンタリータッチで描かれている。蓮行氏率いる劇団が行ったものだが、2日間の研修でいくつかのワークやゲームを経て、実際にシナリオを作って上演までこなす。ただプロに求めるような芸術作品を作れというのではない。演劇力によって仕事力をアップさせるのが目的だった。

 コミュニケーションは個人の能力に依存するのではなく、周囲の環境に影響されるものだから、「フィクション」の力を借りることで環境を変えたり修復できたりもするという。そうしたコミュニケーション力が国際化、多国籍化、さらに日本人同士の価値観の多様化していくこれからの日本で生き抜くために重要だと説く。

 蓮行氏と平田オリザ氏の対談も収められているが、そこで「戦後の経済成長の中では、お父さんは『サラリーマン』という役しか演じ」なかった、「日本人が演じる必要が無くなった、すなわち決定的な均一化がすすんだのは、昭和三十年代以降のことだ」と述べている。これを「人類史上稀に見る画一性」だともいう。「サラリーマン」しか演じられなかった人たちがサラリーマンを辞めたらいったい何を演じるのだろうか。

 本書では指導者がなくても数人でできる演劇ワークショップの方法も掲載している。演劇を見たことがなくても、演劇力が持つ力とその必要性が理解できる。