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りらいぶジャーナル

地域に根差す出版を

テーマ設定と読者の想定をしっかり
さきたま出版会

 埼玉県の歴史や風土、文化など地域に根差した出版を手がけている株式会社さきたま出版会(さいたま市)。創業35年で900点もの出版物を世に出してきた。
 同社の星野和央社長はかつて人文科学系の出版社で18年間、編集者として腕を振るった。退職後に同社を立ち上げたが、プロ編集者としての厳しい目で制作に臨む姿勢は変わらない。

「何をテーマに、どのような本をつくり、誰に提供するのか。それが出版の基本です。そこには当然危険性を伴います。それがない出版は出版ではない。
 それに出版は産業ではない。もっと慎ましやかなものです。そうでなければしっかりとした本はできないと思います。したがって、書き手も出版社も志があるかないかが大きな境目となります」

 これは自費出版であろうと商業出版であろうと同じことだと星野氏はいう。「だから、出版物にさきたま出版会の名を使うからにはとことん編集する」。 自費出版物は書店流通を可とする「発行」か、不可とする「制作」かで明確に区分していることにもその理念が表れている。

 たとえば学校史は市販されるものではないが、企画の段階からどのように編集スタッフをつくるか、出版プロデューサーとしてかかわりを持つという。「ただ最近は予算先行で、相見積もりで判断されるケースが多くなり、我々の方法で入り込む余地がなくなった。それがいまの課題」と顔をしかめる。

 活字離れが叫ばれて久しい。インターネットなどITも出版業界を戦々恐々とさせる。しかし「本はある意味不変。出版産業とはいえないというのもそういう意味があるから。産業となって出版社が大きくなったら、そこからもれてしまうものがある。そのなかに重要なものがあるのではないか」と出版社としてのあり方をも問うている。
(2009.10.23)