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りらいぶジャーナル

筆にまかせて

伊東昌平著(ブックワークス)私家版

 歯痛のときに願掛けしたツゲの木、蜂の巣を攻撃して幼虫を食べる楽しみ、ご馳走を持って出かけた鎮守の森のお祭りと田舎芝居、空気銃を手に歩き回った山、狐に化かされた話や人魂に興奮したできごとなど著者が過ごした故郷の情景が浮かび上がる。

 まるで昔話の世界だが、都心から西へ向かう鉄道の沿線、今ではベッドタウンとなった土地の数十年前の姿である。

 本書は精肉店を営んでいた著者が商売から退き、自分の時間を過ごすようになってすぐの63歳のときに同書名で私家版として作成した。83歳で故人となるが、三回忌に家族が追悼の意を込め、同書をベースに自由な時間を得てから著者が取り組んだ水彩画や木版画、スケッチと写真を加えて上梓したもの。著者の記憶がよみがえるような作品。