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りらいぶジャーナル

共生共存キーワードに生きがい発見――まずは自身の健康を見直そう

株式会社バイオリサーチセンター社長 久木浩平さん

 シニアにとって健康は一番の関心ごと。いかに健康でいるかということがあらゆることにチャレンジするためのベースとなる。長年医薬品の試験に携わってきた久木浩平さんがシニアと健康について語る。

健康と幸せ
 健康とは心身双方が健康であるということです。しかし自殺者が11年連続で3万人を超えている今の日本は本当に健康なのでしょうか。長生きは幸せに通じると思っていますが、本当にそうなっているでしょうか。


 私は医薬品の有効性や安全性を試験する仕事を通じて社会に貢献したいと思っています。あるご縁で、地元岐阜県羽島市内の小中学校で今、「命の授業」をボランティア活動として行っています。小学6年生と中学3年生の生徒さんに『薬は動物の力を借りている』という話をしています。

 そこで授業の準備をしながら日本人の寿命がどれだけ延びたのか調べてみると、現在の平均寿命は男女平均で83歳ですが、江戸時代は30歳でした。明治時代でも39歳です。ようやく50歳を超えたのは1947年ですから、この60年ほどで30歳以上も延びたことになります。

 では江戸時代や明治時代、そして60年前は今より寿命が短く不幸せだったのかというと、歴史書でもそのような実証はありません。現に物質的に貧しかった私の幼年時代は今よりも心豊かな社会で幸せでした。
 何を持って幸せなのでしょうか。

 薬は人間の健康に役立ち寿命を延ばすことに大きく貢献してきました。また薬は人が使う前に実験動物で効果や安全性が確認されています。

 私は40年近くたくさんの動物を使って薬の研究を行ってきました。その私が自分の子どもが生まれたとき、動物実験ができなくなった時期があります。使用する動物が私の子どもに見えてしまうのです。手が進まず、教授に相談すると、「鬼手仏心」という言葉を教えてもらいました。「手は鬼のような行為をしていても心は仏の気持ちで仕事をやりなさい。そしてその仕事は人のためになっている」という教えでした。それ以来、私はその教えを信じ仕事を続けてきました。

 しかし、今はこの「人のため」という大名目だけで動物を扱ってはいけないと認識しています。それは近年、私たちは「人のため」を理由にして余りにも多くの他の生物を犠牲にしているからです。地球温暖化によるサンゴ礁の死滅、ホッキョクグマの減少、里山破壊や住宅やホテル開発によるサル、クマ、シカへの影響、マグロなどの乱獲による漁獲量の減少など人間の利益を主体にした行為が原因になっています。これはこの地球上で一番に知能が発達している人間だからできることです。

 私の仕事である薬を開発する能力も同じです。その開発の犠牲になった動物に感謝するだけでは足りないのです。人が他の動物の命をもらって開発された薬によって寿命が延びた分、私たちは他の動物に何をすべきかを明確にしなければいけないと思うのです。

何のために生きているか

 生きる目的がきちんと定まれば、心ここに非ずということは少ないでしょう。何のために生きているのかを明確にしようとしている人には、中途半端な生き方は少ないといえます。

 私は仕事を通じて人間は何のために生きているのかを整理してみました。それは地球上のすべての生物と共生共存を図り、それぞれの生物の種の保存を図ることだと理解しています。そこに人間の役割があると思うのです。地球上で生きていくために、すべての生物の共生共存が必要であることを理解できるのは人間しかいません。人間の都合だけで動植物の命を奪い、共生共存で維持されてきた生態系を崩し、さらには人間社会でも人の命までもおろそかにし、隣人との共生共存も図れないような地球の現状を救う役割りが当に今、人間である私たちに求められていると思います。

 リタイアされた方にも共生共存のキーワードを頭に置いて、身近な所で、そして手の届く範囲で社会に役立つことを考えれば、生きがいが感じられるテーマはいろいろ見つかるでしょう。例えば日常生活のなかで夫婦愛、家族愛、隣人愛に役立とういう目的を持てば、自分が何をすべきかという具体的な言動につながっていきます。そのためには先に述べた私たち自身が心身ともに健康でなくてはいけません。

企業姿勢が大事な健康食品

 その健康を考えるうえで身近なものとして健康食品があります。私たちは試験を年間400件ほど行いますが、検体が健康食品の試験が年々増えています。昨年度は受託している薬理試験(有効性試験)の16%、安全性試験の30%が健康食品でした。今や薬が果たしてきた役割の一部分を健康食品が補おうとしている動きがわかります。しかし、なかには安全性すら確認されていない健康食品があり注意が必要ですが、普及とともに製造責任あるいは販売責任として確認しようする会社が徐々に増えています。

 現代の医薬品のほとんどは合成医薬品です。しかし昔は医食同源の考えの下、身近な植物を薬として用いていました。臨済宗を開祖した栄西は茶を日本に伝えたのですが、このときの茶は薬として入ってきました。南天の実、医者いらずと呼ばれるアロエ、ゲンノショウコなど他にもいくつもあります。柳が植わっている所にリュウマチが少ないという話があります。その原因を調べたら柳の樹皮にサリチル酸が含まれていることがわかり、それからアスピリンが開発されました。

 一方、サプリメントは健康食品とは区分しています。人間が不足しがちなビタミン類や亜鉛、マンガンなど微量元素を主成分とする食品を栄養補助食品あるいはサプリメントといいます。

 健康食品には科学的に効果が実証されているものと、されていないものがあります。また健康食品を扱っている会社のなかには売らんかなという目線の会社があるのも事実です。健康食品会社の方とお話する機会があるとき、自社製品をご自分の家族にも勧められますかとお聞きすることがあります。もし勧められないのだとしたら、私利私欲のための商売でしかなく、人の健康や命を考えていないといっても過言ではないでしょう。どんなに大企業であろうが小さい企業であろうが、そういう基本的な経営姿勢に注意する必要があります。消費者の立場に立って開発されている健康食品は成分や効果、安全性の科学的根拠などのデータがあります。購入時に確認してみることです。

勘違い健康法に注意

 健康体のやり玉に挙げられる成分にコレステロールがあります。よくコレステロールは下げなさいといわれますが、コレステロールは生体内で胆汁酸や各種ホルモンを作る大切な母体成分です。ですから下げ過ぎは逆に病気のもとになります。むしろ少し高めのほうが長生するという学説もあるくらいです。

 また血糖値や血圧も同様で、ともすると下げることばかりが話題になりますが、生理的に糖には糖の、血圧には血圧の役割があるということも知っておくべきです。両者ともに下げ過ぎると死んでしまいます。こうした生理作用を学べば学ぶほどコレステロールも血糖も必要だから存在しているということがわかり、興味が持てるとともにテレビや雑誌などの宣伝に惑わされなくなります。

体重を維持、煙草は厳禁

 ただ今の日本人の食生活は飽食状況にあり、必要以上に食べ過ぎてカロリー過多から病気になっています。食べ過ぎて病気になり、薬を飲んで治療している姿はまるで「マッチポンプ」状況です。ですので、年齢に応じたカロリーを考える必要があります。

 その一番の目安は体重です。BMI(肥満度を表す指数)は25未満を維持することです。体重維持にさえ心がければ、少なくとも肥満由来の心筋梗塞、脳梗塞、高血圧は予防、改善されます。そのために最低1日1回体重計にのることです。ただやせ過ぎには注意です。

 それから煙草は絶対にいけません。煙草に含まれる成分は血管を収縮します。血管は体全体に網羅されているわけですから、血管が収縮されれば必要な酸素や成分が行き渡りません。それに起因していろいろな障害を引き起こします。それに高い発がん性です。本人そして周辺の人にも副流煙でのリスクがあり、特に女性への影響が大きいといわれています。私は喫煙者に「奥さんや娘さんを愛しているのなら煙草は止めましょう」とお話ししています。

生かされていることに感謝

 私は過去に3人の不測の死を体験しました。一人は小学校から高校までずっと一緒だった同級生が18歳のとき、登校中にトラックから落下してきたブリキトタンの直撃を受け亡くなりました。製薬会社に勤めていたときには、御巣鷹山の日航ジャンボ機墜落事故で35歳の同僚を失いました。さらに社員旅行中に27歳の社員が心筋梗塞で亡くなりました。3人とももっと生きたかっただろうと思うのです。

 ある書物で私たちが人として命をいただいて生まれてくる確率は2兆5000億分の1だということを読んだことがあります。つまり私たちは天文学的な確率で命をいただいているのです。ですから命をいただいた者は与えられた時間にもっと感謝し、大切にしなければなりません。会社をリタイアされた方のなかで、もし自分の人生はもう終わりだなんて思われている人がおられたとすれば、それはもったいないことです。またもっと生きたかった人に申し訳ないことです。

 人生80歳まで生きるとして2万9200日になります。60~80歳までを計算すると7200日です。いかにその与えられた時間を生き抜くか、このことをもっと真剣に考えるべきです。今なお南アフリカには平均寿命が40歳に満たない国がいくつもあります。医療制度の整った日本は恵まれた国で、その国で自分が生かされている喜びや感謝することに気付かないければいけません。それに気が付いたら、生きることとは、健康とは、幸せとは何かということが今以上に前向きに考えられるはずです。

 私もすでに61歳を超えていますが、これからも一人でも多くの人に、一つでも多くの喜びや感動をプレゼントできれば思っています。それも人間だけでなく、すべての生物に対してです。それは人としての私の役割だからです。

きゅうきこうへい●1947年京都府生まれ。東京薬科大学卒業後、製薬会社に勤務。75~87年岐阜大学医学部薬理学教室に内地留学。医学博士。87年株式会社日本バイオリサーチセンター入社、2004年6月同社代表取締役社長に就任、現在に至る。自然や人の心に触れる旅行や花の観賞を趣味とするほか、風刺コントや川柳に興じ、朝日新聞「かたえくぼ」に風刺コントが、日本アイソトープ協会誌などに川柳が掲載されている。
(2009.07.27)